main_10|10|09 寂しいから、優しく構って!(天戦)

20000hit御礼小説。
「ほのぼの甘」

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丸一日の護衛の仕事を終えて帰宅、アパートの自分の部屋の前で、天草は扉を開けるのを躊躇した。
中に、誰かいる。
殺気めいたものは何も感じないが、中に誰かがいることは確かだ。こういう直感は信じることにしている。下手をすれば命取りになるからだ。スリル狂の自覚はあるが、けして無謀な訳ではない。
どうしようかと一考し、それから面倒になって扉を開けた。中にある気配は一人。殺気はおろか、害意も感じられない。いざと言う時の為の黒塗りの塊も懐に忍ばせてある。

部屋の間取りを思い浮かべ玄関に足を踏み入れた瞬間、見慣れた運動靴が目に入った。自分のものではない、高校生が履くような、それ。それを認識した途端、天草は笑い出しそうになった。
扉を閉めて、何の警戒も無く明かりをつけて、部屋に入る。家具の少ない生活臭の感じられない部屋の中、ベッドの上で運動靴の持ち主がシーツに包まって丸くなっていた。恋人は以前渡した合鍵を使って入ったのだろう。

ベッドに歩み寄り、顔を覗き込む。両目は閉じられていて、規則的な呼吸が聞こえる。頬を指で撫でてみたが、反応はない。完全に寝入っているようだった。
(どうするか、これ)
少し迷った後、寝ているなら仕方ないと、シャワーを浴びることにした。ベッドからずり落ちていた布団を掛けてやり、天草は備え付きの、狭い風呂場へと向かった。









「あ」


肩に掛けたタオルで髪の水気を拭取りながら部屋に戻ると、熟睡していた戦人が身体を起こしていた。ベッドに座った状態で此方を見ている。…見ている、筈なのだが、まだ寝ぼけ眼らしくぼんやりとしている様だった。
苦笑して、戦人の隣、ベッドに腰掛ける。肩を抱き寄せて首筋に吸い付くと、戦人はびくりと身体を震わせ、喉が引き攣ったような声を上げた。


「な、何しやがる」
「ここが狼の寝床だって事、忘れてやしませんか?」
「何が狼だよ、わ、馬鹿…!」
「っ、おっと」


覆い被さってキスをしようとしたら、思い切り枕を投げつけられた。至近距離は結構痛い。拒否されたときにあまりしつこくすると、後々が怖いのでこれ以上は止めておく。


「…で、戦人さん、あんた、家帰ってないでしょう」
「……まあ」


子供を諭すように聞けば、戦人は黙り込んだ。玄関の通学用の運動靴に、この制服姿。壁際には学生鞄も転がっている。学校から直に此処へ来たことは明白だった。
時計を見れは時刻は10時を過ぎている。一体、何時間ここで待っていたんだろうか。


「いいじゃねえか……誰もいない家に帰るのもなんか…嫌だったんだよ、今日は」
「それなら、お嬢のところに帰ればいいでしょう?」
「…う、いいだろ別に…。それとも俺が来たのが迷惑だったのかよ」
「いや、それについてはむしろ大歓迎なんですがね。…あ、でも、このアパート壁薄いんで大きい声出すと隣に聞こえるかも…」
「何の話してんだよ、手前は!」
「え、俺の所に来たってことは、したいって事でしょ」
「そんな事一言も言ってねえ!」


顔を真っ赤にして、戦人は再度天草を枕で殴った。
可愛いなあ、可愛いけれど、手厳しい。


「じゃあ、何しに来たんですか?」
「…お、…お前に会いたかったからじゃ、駄目なのか…」
「へえ、で、会って、どうしたいんです?」


段々と天草の思考が読めてきたらしく、戦人は頬を赤く染めたまま、少し泣きそうな顔になる。
視線を右左、上へ下へと、天草の顔を見ないように彷徨わせていた。口がぱくぱくと開閉を繰り返す。


「ね、何して欲しいですか」


熱を持った頬を両手で包み、鼻先が触れ合ってしまいそうなほどに顔を寄せて、意識した甘い声で囁けば、戦人は漸く天草を真っ直ぐに捉えた。
期待と羞恥が織り交ぜられた瞳が僅かに潤んでいる。


「…き……キス、してくれ」


間髪いれずに、唇がぶつかる。舌で唇の間を舐めると、それを合図のように戦人の口が僅かに開かれる。そこから舌を差し込んで、後は彼の好きに。
まだ湿り気を帯びている髪に、戦人の指が絡んだ。



寂しいから、優しく構って!
(恥ずかしがり屋です、そんな事は言えません)








あきゅろす。
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