main_10|08|19 こんなに馬鹿らしい(嘉戦)
軽く閲覧注意

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愛しているのだと何の躊躇いも無く断言する事が出来れば良かったのに、そんな嘘を吐く勇気さえ無いのだ。


「戦人様」


恭しく俺の手を取り、その甲へ一度口付けをして、それから舌を這わせる。
ぬるり。滑るざらついた感触に、声にならない吐息が漏れた。頬に熱が上がってくるのを感じる。


「か、のんくん、」
「はい…戦人様」
「…っ、い、いやだ、それ」
「…そうは見えませんが」


指の間を舌が通って、とうとう震えながら吐き出していた吐息は声になった。上擦ったはしたない声が、はっきりと空気を震わせた。だから、嫌だったのに。恥ずかしさで目に涙の厚い膜が張る。どくどくと忙しない心臓の動きが耳元で聞こえる気がした。
やめてやめてと頭を振るが、要求が呑まれる事は無い。終いには、俺の口は喘ぎと嘉音君と名前を呼ぶのとを交互に繰り返すだけになった。
くすぐったいのか気持ち良いのか、よく分からない。分っていることといえば、自分は舌の感触と、手をくまなく舐め上げられているこの状況に興奮しているのだろう。自覚すれば、悲しくなった。
浅ましい自分を突き付けられている様。

いつの間にか、舐められているのは手だけではなかった。首筋、胸元、太股。乱された着衣を掻い潜り、舌が素肌をなぞっていく。体に力が入らない。腰はもう立ちそうに無かった。


「ぁ、ん、うう、…っう」
「戦人様、好きです、愛しています、貴方を」


彼は何度も何度も、舌を這わせる合間に、俺を愛していると囁いた。それこそ馬鹿の一つ覚えのように。こういう時のそう言う言葉は、きっと気分を昂めて行く筈なのに、愛を聞く度に熱くなる身体と比例して俺の内側は冷えて行った。白ける、白けていく。やたら甘ったるい自分の悲鳴を聞きながら、脳の奥が理性を取り戻して、体から離れていく。
(おかしくなる)     何が?


どうして、



こんなに馬鹿らしい




眼から零れた涙が、伝ってこめかみを冷やす。
絶えず聞こえる愛しているという言葉に、俺は喘ぎで返事が出来ない振りをした。






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