main_10|04|05 いつまで経っても、子供。(留戦)
・キスまで

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いつまで経っても、子供。


ばかばかくるな近付くんじゃねえ、死ねクソ親父、寄るな変態!

自分を守るようにシーツに包まって、可愛らしい真っ赤な顔とは裏腹に、口からありったけの罵声を飛ばしている。飛んできたクッションを避けながら、留弗夫は呆れた様に、大袈裟に溜息を零した。


「可愛くねえなあ、誰に向かってそんな口聞いてんだ?」
「てめぇだクソ親父ッ!可愛くなくて結構だってんだ!」


ふうふう荒い呼吸を繰り返しながらも、涙で潤んだ眼でぎろりと睨んできた。どういうつもりなのかは知らないが、泣きそうな瞳ではなんの迫力もない。
留弗夫はもう一度、溜息をついた。


「…キスくれぇでそんな騒ぐなよ」
「騒ぐにきまってんだろぉ?!何が嬉しくて、寝起きだってのにてめぇに…きっ、キスされなきゃなんねえんだよ!何でだよ、頭沸いてんじゃねえのかよ!」


何で、と言われても、特に理由らしい理由は無い。残念なことに。
強いて言うなら、したくなったから?それだけだ。実の息子に抱く感情としては少しおかしいかもしれないが、たかが口付け程度、そう騒ぐことでもないだろう。
18にもなって、いつまでお子様でいるつもりなのだか。下手したら女を抱いたことも無いんじゃないか?自分がこの年頃の時にはとっくに経験済みだった筈だ。…これは少し不安だ。


「おい、戦人」
「…?な、何だよ?謝ったって許さねぇぞ、俺は」
「違えよ。…お前、女抱いたことあるのか?」
「ぶっ!?なんっ…そ、そんなこと、親父には関係ねぇだろ!?」


耳まで真っ赤にしての叫びは、経験なんてありませんと言っている様なものだろう。分かり易過ぎる様子に、ああこいつは将来悪い人間に騙されてしまいそうだと、更に不安になった。


「…戦人お前、もう18だろうが?まだなのか?」
「うう、うるせえよ!したことねえなんて一言も言ってねぇだろ!?」


だから、それがはい童貞ですと言っているようなものなのだ。
留弗夫は呆れ返った。ひょっとしたら女を抱いたことはおろか、…こういう事も、まだ未経験ではないのか。そう思ったら、何故か体が勝手に動いていた。何も考えず、シーツに包まったままの戦人に歩み寄る。怯えたようにびくりと体を震わせ何かを言ってきているが、頭には入ってこなかった。その顎に手を添える。怯えた目は、扇情的なだけだった。ああ、怖いなら、嫌なら、ちゃんと拒絶するって言うのを覚えとかねぇとな。体を強張らせた様子を、留弗夫は鼻で笑った。


「んぐっ」


随分と色気の無い声だ。唇を強引に重ねたまま、留弗夫は頭の隅で考えた。そして、寝起きで熱い咥内に舌を滑り込ませる。噛まれるかもしれないと一瞬思ったが、戦人はそうはしてこなかった。舌でつつくと、戸惑うように動くそれに絡みつく。舌を噛み、歯列をなぞる。潤んだ眼から、とうとう涙がはらりと落ちた。


「ん、んんう、…ふ…」


舌での蹂躙に、ぼろぼろと涙を零す目に、不慣れな舌の動き。やっぱりこういうこともろくにしたことがないのだろう。本当にお子様だと笑いながら、口を開放してやる。…途端、視界を白いものが遮る。


「っ!?」
「〜〜〜っの、クソ親父!」


ばふ、と、戦人が被っていたシーツで視界が覆われた。鬱陶しいそれを手で振り払ったときには、戦人の姿はもうそこにはなかった。


「何ででめぇなんかに、ファーストキス奪われなきゃなんないんだ、馬鹿野郎!」


馬鹿でかい捨て台詞と、勢いよく扉を閉める音、続いてばたばたと廊下を駆けていく音。それらを聞きながら、ああやっぱり初めてだったんだなあと、何故だか留弗夫は口角が上がるのを感じた。






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