main_10|03|31 楽園は遠く、夢は深遠(ベア戦)
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太陽の光を受けて、金の髪がきらきらと光っている。

眩しい位のそれが美しいと、戦人は素直に思った。そのことを口にすると、魔女は得意気に、嬉しそうに笑顔を浮かべた。少し子供っぽい無邪気な笑顔だった。
戦人は目を細める。いつもの下品な笑みではなく、こうやってきれいに笑っていればいいのに。そう思ったがそれは口にはしなかった。

手元にある紅茶を、カップごと持ち上げて飲む。豪勢な暮らしは大分離れていたのだがテーブルマナーは身に染み付いているらしい。こういう上品な場では特に、意識せずともできることに戦人は内心苦笑した。

カップと皿をテーブルに戻す。中の赤い液体は半分ほどになっていた。目線を上げると、そこには相変わらず美しい魔女がいた。目が合う。何となくおかしくなって笑うと、魔女もつられたようにころころと笑った。金の髪が揺れる。日の光が反射して、やっぱりそれはきらきらと光っていて綺麗だった。









赤いカーペットに、もっと赤い液体が染み込んで染みをつくっていった。体の彼方此方が痛くて、もうどこが痛みの元なのかすら分からない。多分、全身が痛いのだ。


(死んだ、な。これ)


染みはどんどん広がっていく。足も一本食い千切られてしまったし、この出血量ではどの道助からないだろう。ぼんやりとした頭で冷静に判断する。
指ひとつ動かすことさえできない体で、傍に立っている魔女を見るために首を動かそうとする。…駄目だ、上手く出来ない。仕方が無く目線だけ動かした。
照明を背に立っているせいで、顔はよく見えなかった。笑っているのか、それとも泣いているのか。何も語らない魔女からは何も分からなかった。ただ、ぼろ雑巾のような姿で倒れている戦人をじっと見つめていることだけは確かだ。
魔女は微動だにしない。何か言っていないだろうかと戦人は耳を澄ませたが、ひゅうひゅうと鳴る自分の呼吸しか聞こえなかった。


「…べ、あと」


何とかそれだけ発することができた。擦れた声は小さく弱々しいものだったが、魔女の耳には届いたらしい。魔女は戦人の元に座り込んだ。距離は近くなったが、それでも表情は見えない。だんだんと目が霞んできたからだ。
靄がかかったような視界の中でも、魔女の金の髪が照明の光を受けてきらきら輝いているのだけは見えた。いつか見たのと同じそれに、戦人は笑みを浮かべた。それだけでも体が辛いし、うまく笑えている自信も無かったが、何故だか笑いたかったのだ。


「きれい、だな」


耳障りな呼吸音に紛れながらも、いつかと同じように戦人は呟いた。魔女が手を伸ばす。白く細い指が、そっと戦人の頬を撫でた。


「…妾は」


そなたの、赤い髪の方が好きだ。

最後にそう聞こえた、気がした。



楽園は遠く、夢は深遠





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