main_10|03|21 だから優しく愛してください(天戦)
「せめて優しくお願いします」のつづきぽい
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体が痛い。腰が重い。今は服に隠れて見えないが、体中の至る所に赤い跡も散らばっていたりして、それを意識すると家に帰って引き篭もりたくなる。
コンディションは最悪。だからといって学校を休む訳にも行かず、鞄を肩に掛けとぼとぼ登校中だ。


つい昨日。天草に抱かれた。ちなみに性別関係なく俺はセックス自体初体験だった。そんな俺の初めてを奴はあっさりと奪っていきやがった。それも学校でだ。せめてベッドが良かった。床の上なんかじゃなく。

お陰で調子が悪い。当たり前だ。本来男同士でやるもんじゃないし、床は痛かったし、それはもう激しかった。あーあ、若いって怖い。同い年だけど。
昨日は家まで送ってもらってから、電話もしていない。最中や直後は気分が高ぶっていたから良いものの、今はもう天草と顔を合わせることすらまともにできない気がする。後悔しているのか恥ずかしいのか、自分でもよく分からないがとにかく今は天草には会いたくない。


「戦人さーん」


会いたくない、のに。


「おはようございます…って、何で逃げるんですか!」
「うるせえぇえええ!!」


後ろから天草の声がしたので後ろを振り返ることも無く俺は走り出した。二人分の駆ける音。野郎追ってきやがる。いきなり逃げられりゃ当然かもしれないが。

走って走って、目に留まった路地裏に逃げ込む。そこで後ろをやっと振り返って、


「……っ」


が、と手首を掴まれた。誰に?勿論天草にだ。


「はぁっ……っとに…いきなり逃げなくてもいいじゃないですか」


しまった。重い体に鞭打って走ったのだが、やはり普段程は走れなかったのだ。何時もなら、足の速さなら天草より俺の方が上だと言うのに。

痛いくらいに強く掴まれたままの手首が引かれ、俺は天草の胸にダイブした。ここ外だぞ、と言い掛けてやめる。どうせ薄暗い路地裏だ。人なんてそうそう通らないだろう。走ったせいで酸素不足の頭でぼんやり考える。

腰に天草の手が添えられさらに俺を引き寄せる。反対の手は顎に添えられ、ぐっと上を向けさせられる。あ、と思ったときには唇が重なっていて、すぐ離れた。
途端頭がはっと冴え、我に返った。天草の胸を押し離れようともがく。


「何してんだよッ、離せ、バカ草!」
「嫌ですよ、離したらあんた逃げるでしょ」
「ったりめーだろうが!」


暴れる俺を押さえ込もうと、強く抱き締められる。駄目だ、全然駄目だ。体が触れ合う感触に昨日のことを思い出してしまう。
駄目だって。思い出すな。顔が、熱くなる。


「…戦人さん、顔真っ赤ですぜ」
「うるせぇ黙れ、喋んなッ!」


睨み付けるとあろうことか奴はにやにやと笑った。喜んでいる顔だ。腹立たしい、何で俺がこいつを喜ばせてやらなきゃならない!


「昨日ので、照れてるんですか」
「照れてねぇ」
「嘘ばっかり」
「嘘じゃねぇ!」


ぎゃあぎゃあ喚く自分はまるで子供のようだと思ったが否定は止められない。それがあからさまな嘘だとしてもだ。
そうだ、分かっているとも。天草を見るだけで熱くなる顔のお陰でようやく分かった。こいつの言う通り俺は照れているのだ。昨日の出来事のせいで、顔を合わせることを恥ずかしがっている。
女子か何かか俺は。セックスひとつで、ガキみたいに恥ずかしがらなくてもいいだろう。頭ではそう思うのに、体は真逆だった。意思に関係なく赤く染まる頬は、恥ずかしがっている証拠だ。


「戦人さん」


嫌らしい笑みは優しげなものに変わっていて、心底愛しいという声色で名前を呼ばれる。何だか馬鹿みたいになって抵抗をやめた。大人しく天草の腕に収まると、子供をあやすみたいに頭を撫でられる。
天草の背中に手を回す。あまくさ、と呼ぶ自分の声が甘える様な声音で、少しだけ恥ずかしくなった。










あきゅろす。
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