main_10|03|16 プラナスペルシカ(天戦)
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「ええと、天草、だっけ?よろしくな」
「はい。右代宮先輩」
「あー、名前で呼んでくれるか?苗字呼び嫌いなんだよ」
「そうなんですか?じゃ、戦人先輩」
「おう。…あ、俺の下の名前知ってんだな」
「アンタ有名ですからねえ」


俺と彼はそんなことを言い合いながら、図書室のカウンターに着く。放課後の一時間、図書委員として貸し出しの受付をするのだ。彼と自分が一緒の当番になったのは今日が初めて。だから彼は、大勢いる図書委員の中で自分の名前を知っていることに驚いたのだろう。
知っているのは当然。自分は彼目当てで図書委員会に入ったのだ。彼はただ単に本好きでこの委員会に入っているのだろうが、自分はそういう邪な理由だ。こうして接近できるのを期待しての。
喜ばしいことに今日の図書室の利用者はいないようだ。これがテスト前なんかになると席がほとんど埋まってしまうほどに混む。自分達以外誰もいない図書室のお陰で念願の二人きりだ。


「有名って…」
「有名ですよ。名前も変わってますし、あとその赤い髪とか目立ちますから」
「名前は不可抗力だな…あとこれ地毛だぜ、言っとくけど」
「え、そうなんですか?へぇ〜…あ、あと戦人先輩は人気ですからね。クラスの女子とか凄い騒いでますよ」


へぇ、と彼は曖昧な返事をした。普通喜ぶ所だと思うのだが、なんだかあまり興味がないみたいだ。


「嬉しくないんですかい?」
「んー?好かれんのは嬉しいけどよ…今は別に、いいっていうか」
「彼女でもいるんで?」
「そんなのいやしねぇよ」


特定の相手は今は欲しくない、と彼は続けた。恋人は居ない。知ることができたその事実に胸中でガッツポーズをする。


「そう言うお前はどうなんだよ?彼女でも居んのかぁ?」
「居ませんよ、俺も」
「じゃあ好きな子とか」
「あー…それは、一応…」
「おっ!誰だ?どんな子だよ?」


目の前にいるアンタなんですけどね。

なんて言う訳にもいかないのだが。というか、彼が身を乗り出してきているお陰で顔が近い。意識して顔が赤くなるのを防ぐ。


「名前は言えませんけど……えーと…この学校の生徒で、ひとつ年上ですね」
「俺と同学年か」
「入学した時にたまたま見かけて一目惚れして、それからです」
「…お前って、何か純粋だなぁ」


(いやいや不純の塊ですけどね!アンタに対してキスしてやりたいとか突っ込んでやりたいとか、そんなことばかり考えてますよ?)

あはは、と笑って誤魔化す。彼は椅子に座り直し、頑張れよと笑顔で言い放った。うん、頑張ろう。

そこで図書室の扉が開き、数人の生徒が入ってきた。残念、二人きりはここまでだ。


とりあえず今日の目標として。帰るまでに、理由をこじつけて電話番号くらいは聞いて帰ろう。











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