魚は湖を泳いでいる。 暇。釣りってすごい暇。いくら糸垂らしてたって魚の口元は掠りもしない。暇。太公望は釣れてるのかな。 「…釣れてないじゃん」 「そうすぐには釣れないさ」 余裕ですね。あたし飽きてきちゃったよ。ちょっと釣り竿を揺らしてみる。餌が揺れて美味しそうに見えるかもしれない。そして魚は騙されるかもしれない。 「魚が逃げてしまうが」 「だって釣れないんだもん」 「人の子とは忍耐力がないものなのだな」 忍耐力なのかなあこれ。魚は見えるのに釣れない。つまんない。むしろ眠くなってきた。太公望は優雅に湖を泳ぐ魚を眺めている。見てても釣れないじゃない。素手の方が早かったりして。 「なまえは泳ぎが得意か?」 「うーん、微妙」 「魚になりたいと、思ったりするのだろう?」 「泳ぎが上手いからね、ちょっとだけ思う」 どんなに深い湖だろうと魚って泳げるんだよ。すごいじゃん。あたしは所詮人の子だからそこまで優雅に泳げない。だから仙人の太公望が泳ぎが得意なのかといったらあたしは、知らない。どっちでもいいや。 「魚って楽しいのかな」 「どうしてそう思う?」 「ずっと泳いでてさ」 「空を飛びたいのでは、とでも?」 「あたしだったらそう思うけどね」 「人の子、というかなまえは面白い発想をするのだな」 魚は湖を泳いでいる。 「あ」 魚が大きく跳ねた。 空を飛んだとはお世辞にも言えないくらいささやかな跳躍。やっぱり飛びたいのかな。飛べないって知ってるのかな。 (それでも、)魚は空を飛んだように見えたけど。どう思う太公望。 魚は空を飛びたかったのか。 呟いた太公望が薄く笑う。なまえの思考回路がわかった気がしたよ、って。それってちょっと失礼だよまったく。 (20090306) |