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ネームレス(石田三成)



佐吉。呼べば不機嫌そうにだがすぐに振り返ってくれた。三成は佐吉だから。もうその名を呼ぶことは無いけれど。あたしはいつまでもあたしであって、佐吉はいつまでも佐吉のはずだが三成だ。あたしと三成の関係は変わらないのに佐吉はずいぶん遠くへいってしまった気がする。


佐吉。なんだかとてつもなく懐かしいその名前は自分で、相槌を返すのが遅れた。俺は三成であって佐吉だ、なまえもなまえだが俺は三成になった。もうあの名を呼ばれることもないが。名前を呼んだ張本人であるなまえも俺も今でもなにも変わらないのに、ずいぶんと距離が離れた気がする。



「佐吉なんて久しぶりに呼んだね」
「ならば俺も久しぶりに呼ばれた」
「なんかさあ」
「なんだ」
「さみしいね」



あたしは佐吉を知っている。三成も知っている。けれど佐吉も三成も同じひとりの人間だ。あたしの知っている佐吉はちゃんとそばにいるのに三成との距離は埋まらない。三成と呼べば呼ぶほど、佐吉は離れていくばかりだ。


なまえは佐吉を知っている。三成と呼ばれる俺も知っている。だが所詮は同じひとりの俺だ、佐吉だろうと三成だろうと。俺の知っているなまえはこんなにも側にいるのに距離は埋まらない。三成と呼ばれれば呼ばれるほど、佐吉と笑うなまえと離れていくばかりだ。







(20090327)


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