「ただいま」 何度戦へ赴けど、数は減ることを知らず増えてゆく気すらする。火の海を何度作り出しただろう。そして何人のひとが、生涯に幕をおろしたのだろう。 そして私は生きている。今だってほら、なまえの元へこの足が向かって、この腕はなまえを抱きしめる。なまえはひとの焦げる匂いも、錆びた血の匂いもしない。(それでいい。)なまえまで戦に塗れたら、私の行き場はどこにもなってしまう。汚れるのは私で、いい。 「よかった」 「どうして」 「生きてる、陸遜」 「死にませんよ」 安堵の笑みは道標のようだ。なまえは私を、戦から導いてくれている。あなたというひとがいるから私は今日も、ただいまというありふれた挨拶を口にできるのだ。 私、生きているんです。たくさんの屍を踏み越えて、生きているんです。そしてなまえの元へ帰ってきました。なんて私は罰当たりな幸せ者なんでしょう。 (いつもいつだって、)なまえ、帰る場所があなたなら。戦の匂いのしない柔らかい暖かななまえが私の末路ならいいのに。 「ただいま」 (20090322) |