その目は何を見てるんだろう。あたしではないことは確かなのが悲しい。こんなにも近くにいるのに、その紫は何を見ているの。のぞき込まれたあたしの目にはあなた、太公望が映ってるでしょ。あたしは映しているのにずるい、あなたは映さない。なにも、だれも。 「貴公がほしい」 「あげない」 「ほしいのは、今だけさ」 だったら尚更あげないわ。その場しのぎにあたしは欲されるなんて、惨めで悲しい。あたしはあなたに出会って恋に落ちてから悲しいことばかりだよ太公望。 「満たされないのだ」 「それは残念」 「満たしてくれないか」 「出来ないよ」 何もないがらんどうのあなたを埋めるには、あたしの愛でも小さすぎると思うんだ。あたし以外で満たせばいい。そうしたら足りるかもしれない。 「誰をみてるの?」 答えないのか答えられないのか。太公望、からっぽの太公望。誰が満たしてもいつだってからっぽじゃあないか。 「貴公をみている」 ろくに名前も呼べないくせに。その紫の目はあたしがほしいと絡みつく。 (20090319) |