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垣間見る日常


1ヶ月に一回、日直はやって来る。

黒板消し・日直当番誌は基本事項及び定番で、それに加えて…黒板下の濡れぶき掃除と机椅子の整頓、窓閉め、
…書いた日誌を担任に提出するのも最後の最後にある。

このようにめんどくさいのが嫌いな私にとって、嬉しくない日なのである。
ちなみに一番嬉しくないのは、体育の授業ね!





『にょにょ、身長があれば楽に黒板消せるのにっ…!』

「頑張って、て。高いところは私がやるから!」

『ありがとう心の友よぉー!!(←某漫画・アニメの)』

「あっ…(←引きぎみ)」

『?』



毎時間の黒板消しは背の低い者にとっては最大の苦痛であり、高い部分を消すのに背伸びして腕を名一杯伸ばしても届かないもどかしさ…
クラスメイトや友達が私を見兼ねて消すのを手伝ってくれるんだ。

だから苦痛も半分になり、高いところも消してもらって大助かり!
ホント身長欲しいぜ!!





放課後にはほとんどの生徒は教室からいなくなり、カバンを置いてあるのは数人になっていた。

その数人の中で教室にいるのは、私と親友二人という…うん、こんなもんだ。



「ほら、早く日誌書きなよ。黒板下の水ぶきは私がするから」


彼女は「私が帰る時間までだよー」と付け足して、雑巾を濡らしに洗面所へと向かった。
このあとピアノの習い事があるらしくて、学校から直通で行くんだってさ。

にしてもいい親友を持ったね、私しゃ。


感激しながらも、今日一日のまとめである日誌を書き始めた。



『天気は晴れで、欠席は獄寺くん、遅刻は0…とっ』

「ってか、何で獄寺くん欠席したんだろう?風邪かな?」


黒板下を拭く彼女から聞こえてきたところ悪いが、おそらくダイナマイトの調達だろう。

それというのも、朝の登校中に武くんとツナくんに偶然会ったことから。
一緒に学校に向う途中、獄寺くんが休みだってことを私に教えてくれたんだ。
何で?って聞くと、笑って答える武くん。


「なんかダイナマイトの調達に行くんだってさ!獄寺残念がってたぜ、ツナに一日会えないからって」

「そ、そんなこと言ってたんだ、獄寺くん…」

『ダイナマイトの調達って?非現実というか未成年というか…アハハ、少年がダイナマイトを国内に持ち込めるの?』

「待って、志歩ちゃん違うから!!」



ツナくんがあまりにも懸命に訂正しようとするから、これは本当なんだなぁと確信した。

とまぁ、獄寺くんならダイナマイト持っててもねーと最後は割りきる感じで受け入れた。

けど他の人に本当のことなんて言えないし。内容が内容だからねぇ…。





「志歩はどう思う?」

『沢田くんに何か言われて一日へこんでるんじゃないのー』

「えぇーウソだぁー」


嘘ですけど、なんかこれでも休んじゃうんじゃない?
こんなこと思いつくなんて私すげぇじゃんと思いながら、今日の時間割と感想を書いてあっという間に終了した。


「感想は?」

『四限にお腹鳴りそうで怖かった。五限の社会でウトウトしてしまった。何はともあれ疲れただけの一日だった。』

「わぉ微妙すぎて反応できない」

『それ困るぅー』



アハハハと笑ってたのも束の間、16時のチャイムが鳴り出すと



「わぁ、もう16時じゃん!!」


じゃあね、志歩!
一言言って鞄をとると、ダッシュで教室を出ていった。

ありがとー
急いでいた親友は私の精一杯の声が聞こえただろうか。








窓を閉め、電気を消し、机と椅子をきちんと並び終える。
窓からは夕陽の光が差し込んで、教室をオレンジ色に染め上げた。

今や私しかこの教室にいないのはちょっぴり寂しい感じがする。



日誌提出以外の日直の仕事が終わった今、このあとは部活に行かなければならない。しかし気が乗らないのだ。
こういうときには行きたくないのだが、大会も近いので休むわけにはいかない。

となると…部活の時間短縮が無難ということ。日直だったから遅くなったという口実もちゃんとある。

そう考えて勝手に自己完結させると、自分の席に座り、机に伏せた。


『ヤバい何この手持ち無沙汰感は』


ダラーと机に上半身の一部を預けていたら、時間が過ぎるかと思いきや…ぜんぜんダメだった。

腕に抱いて机に伏せていた日誌をパラパラと目繰り出す始末。


なぜかわからないけど、ふと止めてしまったページはツナくんのだった…


『何でだろう、』


他は至って普通なのに、ツナくんの感想は…
平和に過ごせて嬉しいときている。

他の人たちは部活やテレビ、授業…私のように疲れたと書いて終わる人も少なくないのに。


全員分の日誌記録を確かめてみた。前月を遡り、最初のページに辿り着くまで。


平和と平凡


何気ない・とりとめもない言葉、なはずなのに…
私は疑問に思った。

彼しかこの言葉は使っていなかった。驚いたことに彼の遡った全ての記録にはこの言葉が使われていた。


『平和だって平凡だって今ずーっと存在しているじゃん』


私は平和すぎて平凡すぎて退屈してるんだよ。

何か起こらないかなぁと胸のうちに秘めながら、至って普通なリアルな日常を繰り返す。

私には理解出来なかった。





「あっ志歩ちゃん!」

『えっ?』


声がした方に体を向けると、笹川さんだった。

人見知りな私に一番最初に声を掛けてくれたのは彼女であり、孤独から救ってくれた恩人である。

そこから交友関係が少し広がって現在に至るわけだが。


「日直の仕事?」

『うん、そんな感じ』


微妙な嘘をついてしまったことに罪悪感を感じた。彼女の笑顔は純粋すぎる。


『あのさ、』
「何かな?」

そういえば笹川さんはツナくんとよく会話している。かなり親密な間柄なのだろうか?

ツナくんに対しての疑問もそんな彼女なら答えを知っているかもしれない。


『沢田くんは平和や平凡を愛してるんだね…』

「えっ…うん、そうだね…」


全ては推測だった。しかし切り出していた。

彼女は私の質問に意外性を感じたのか、驚いたように…しかしそのあとは確信の通った声で肯定した。


「ツナくんは私たちのヒーローだから。仲間が笑ってくれなくて、苦しんだり悲しんだりしてる表情が一番嫌なんだって」

『…』

「だから守る。自分のことは省みずに」

『…っ…』

「平和を愛すのは仲間のため、なんだよ」


笹川さんの淡々とした内容に私は息をつまらせた。
彼はどんなことをしてきたのだろう。

彼女の様子では、ツナくんが私の思っている以上に只者ではないことがうかがえる。


笹川さんの独白とも言うべき時間があまりにも、切なくて、寂しくて、彼女が悲しみに溺れてしまうのではないかという一瞬を垣間見た。

彼女の目は濁っていた。

『ごめん、なんか変なこと聞いちゃってさ…』

「ううん、ぜんぜん変なことなんかじゃないよ」


いつもと同じ屈託のない笑顔に戻っている。


「私こそごめんね、仕事の邪魔しちゃって。よし帰ろう!」


鞄を持ち、帰る彼女の背中はどんどん小さくなる。空間がスローを突き進む。


『笹川さん!』

「ん、何?」


私は彼女を呼び止めた。呼応するかのように、彼女の目は私を正面から捉える。


『平和は…彼のために、笑顔を与えるんだと思う。仲間が大切な彼だからこそ、平凡が似合うんじゃないかな


唐突だった。


「じゃあまた明日ね」


彼女は私の言葉の後、すぐ私に背を向けた。表情がわかんない。

けど最後の言葉に寂しさはなかった気がする。







平和っていいかもね、平凡な私によく似合う

たまには綺麗な気持ちになるのもいいことだ。





夕陽が沈み、一日が終わる
朝陽が昇り、一日が始まる

対の成り立ち、、、












(昨日の日直はツンツン頭の平凡ヤロウ)


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