宝物庫
残り香 3
「は、はや、く…頼む、から…あんたが欲しい」
もう夢中だった。
痛みや羞恥も掻き消して早くそこを使い物にしなければと必死に慣らす。
「信長…!」
まだ充分ではない。きっとこのままでは苦痛が伴う。
分かってはいたが、指を離して信長にすがり付いた。早く早くと急かす俺に難色を示していたが、彼は諦めたように自身を固い蕾に押しあてる。
「信長、のぶなが…」
ぎち、と広がるそこはやはり痛い。
うわ言のように名を呟いて耐えていると、急に慣れた快楽に襲われ驚いた。
「ああっ!」
見れば信長が俺の萎えた自身を愛撫し、快感を与えてくれていた。
「や、ん、ん!」
男にとってまごうことなき快楽。
そして信長は身を屈め、眼帯をしている方の耳に舌を絡めてきた。
「ひっ!」
敏感な鬼目側の神経がビリビリと脳を溶かす。
「あ!あ!いっ、ぁぁ!ひぁ!」
快楽に酔う最中に腰を進める信長。
痛みはない。
ただ中に入ってくる嬉しさに彼の腰に脚を絡め、もっと深くとねだる。
「あぅ…んん」
「…色のついた鬼はなんと厄介なものか」
皮肉を言う信長を見れば、息が乱れ雄の目で俺を見ていた。
「はは…、あんたも…イラヤシイ顔、してるぜ…?んっ!」
中のものが大きくなった。
ああ、嬉しい。
俺で感じてくれているのか。
「俺が…あんたに嫁げる身だったなら、ずっと一緒にいられたのに…あんたの子供だって孕めたのに…」
「…土佐?」
もう別れだと言うのなら、あんたを証明する物が残せないのなら。
「頼むよ…俺の心に刻んでくれ…俺はあんたをずっと覚えてるから、忘れないから」
この部屋で一人でいるとき、この夜を思い出せるようにしてほしい。
尾張に行けば幼い頃を思い出せるように、四国にも残り香を。
「信長…さま」
「………もとちか」
「あ、ああっ!あああ!」
乱暴に、激しく蹂躙される。
荒々しいそれは信長の気質そのもので、中が焼かれてしまいそうだ。
「あ!ひっ…ぃ、く…、いく…!あああ、あ、あ!」
「よい。余が許す。……たんと気をやるがよい」
「あー!!あっ…んんん!あ、あっ…!」
びくり、と弓なりに背を反らせ、促されるまま絶頂を迎えた。
遅れてくる、中に広がる熱い感覚。
「あっ、あっ…」
信長の刻み。
決して身に宿すことは出来ないが、確かに受け取ったのだ。
「先に地獄で待っている。…貴様は遅く参るがよい」
一度、口づけを落とし、惚けた俺の眼帯を取る。
……晒された左の目には、もはや彼は映っていなかった。
「野郎共!戦準備はいいか!」
「いつでも大丈夫ですぜアニキー!!」
「うし!なら…陸の奴等はそのまま残れ、船の奴等は俺と出航しろ!」
「え…?出航、ですか?」
織田を海上で迎えるんですか、と声が上がる中、弟達の不安な目も向けられる。
「いや、織田はもう、来ねぇ」
ざわ、と理解できずに狼狽える野郎共。
弟達はじっとこちらを伺っている。
「向かうのは天王山。そこに明智光秀がいるって噂だ。……織田の宝もきっと奴等の軍が持ってるはずだ!それをありがたく頂戴するのよ!」
おお!お宝ですか!
久々の宝探しと明るくなる中に歩いてゆき、船に乗る。
続けて乗り込んできた弟達に、「大丈夫だ」吹っ切れたと笑ってやれば、苦笑されたが納得してくれたようだ。
船の帆が張られ、碇が引き上げられる。
潮風を頬に浴びながら、もう彼の証が流れ出てしまった腹を撫でた。
あれは夢ではなかった。
目が覚めても、ちゃんと体には痕があった。
最後に願いを聞いてくれたのだ、引き摺ったり、くよくよしたりはしない。
信長がいなくなっても変わらぬ潮風と海音に癒されながら、船は京へと出たのであった。
終。
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