宝物庫
残り香 2
幻ではないか。
彼の死を信じたくない俺が生み出した都合の良い幻想ではないかと手を伸ばすと、ちゃんと彼の体で手は止まった。
「本物だよな…?ちゃんといるんだよな?」
もう片手も伸ばし、顔に触れる。
確かな温かみがある。
「っ…た………良かった…!死んじまったって…思っ…」
ぐしぐし。
泣き顔は見られたくないが、涙と嗚咽が止まらない。
眼帯をした方は涙で濡れ気持ち悪く、信長の前でならと外してしまおうとそこに手を触れたとき、彼の手が覆いそれを阻止した。
「…?」
「そちらの目では見ぬ方が良い」
「え…?」
どういうことだろう。
鬼目を押さえられ、右目で見る信長に嫌な不安が生まれる。
「……まさか」
彼はもう。
「嫌だ!信長、あんた生きているよな!?また戦すんだろ!?なぁ、また叱ってくれるんだろ?また…ここに…」
来てくれるんだろう?
信長の籠手に涙が落ちる。
確かにここにあるのだ。
信長は確かに目の前にいる。
「泣き虫は変わらずか」
耳のすぐ横で声が響く。
頭を抱えられ、ぽんぽん、とあやされて彼の首に顔を埋めた。
「余は逝かねばならぬ。その前に一つだけ願いを聞いてやろう」
貴様は何を願う。
その言葉は別れの宣告。
願わくは彼の生存、けれどそれが無理なのならば。
「忘れたくねぇ…」
もう会えぬというのなら、あんたを思い出す刻みがほしい。
この身に香を残してほしい。
そう願いすがり付く手を、信長は受けとめた。
何度めかの口づけでようやく震えが止まる。
自分から言い出したくせに、布団に倒された次点で無意識に体は恐怖に震えだした。
これから信長と繋がる。
一度も手を出されたことはない相手を自ら誘い、清い関係を絶つ。
今更ながら羞恥と後悔、それと成長した今の体を晒す恐怖。
震える体から帯を解いたところで、信長は寝間着を開くことはせず数回に渡って俺に口づけを落とした。
あやすような口づけに徐々に怯えは治まり、段々と深くなる口づけに体は熱を持ち、舌を吸うそれを真似てみれば気を良くしたのかクツクツと喉で笑われる声がする。
舌であやされるとは思っていなかったが、あまりの気持ち良さに震えは止まった。
「あ、待ってくれ!」
燭台の火を消そうとする信長の手を掴み止めさせると疑問の目をされた。
明るさは恥ずかしい、それを気遣ってくれたのだろうが、消しては駄目なのだ。
「あんたの顔、ちゃんと見ていたい」
「…男をたらしこむ言葉を何処で覚えたか」
「そんなつもりじゃ…」
「よい。しかしよう見ておけ。その口から喘ぐ声しか出せぬようにしてくれる」
「!…あっ、わっ」
標的を戻した信長は首筋を愛撫してきた。
背に腕を回され、浮いた胸の寝間着をはだけ突起を吸われる。
「くっ、ん!」
熱い舌がそこをつつき、ぷくりと尖る先をこねくり回されれば腰まで走る刺激に身を捩り、はしたない体に羞恥で体温が上がる。
「あ、あ」
もう片方のものも指で弾かれれば、取れそうな程に尖るそれに俺は首を左右に振った。
浅ましい。
なんてはしたない。
胸を弄られただけで声は上擦り下腹に血が溜まってゆくのが分かるのだ。
恥ずかしくて堪らないのに、次の刺激に期待している。
「や、あ、早く…」
「くく、淫らよの」
自然と脚を開き、自ら唾液を指に絡めて後ろを解す。
きっと信長には許された時間は少ない。
ならばなるべく長く、早く彼を感じたかった。
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