宝物庫
残り香 (信長×元親)
*常盤ユウ様と相互リンクの記念として戴いたものです
(18歳未満閲覧禁止)
忘れたくない
離れたくない
ずっと傍にいたかったんだ。
部下の報告に耳を疑った。
「な、ん…だと?」
声が喉に貼り付いてうまく出せない。
目の前に座する部下はそんな俺を真っ直ぐに見て、今一度頭を下げて口を開いた。
「尾張の使いより、本能寺にて明智光秀謀反、第六天魔王織田信長は行方知れずとのこと」
「………行方知れず?」
「明智光秀より討ち取られた報告はなく、また明智光秀も行方を眩ました、と。焼け崩れた本能寺からは信長殿の遺体は発見されておらぬとの報告にございます」
謀反。
明智光秀の裏切り。
以前から気味が悪く何を考えているか分からない男だったが、まさか謀反を起こすとは。
そして狙われた信長は行方知れず。
まさか、明智相手に討たれることはないと思うが、行方知れずという報告が腑に落ちない。
信長は強い。
死ぬはずがない。
現に、焼け後から彼は消えている。
「………元親様?」
「あ……悪い。何だ?」
思考に夢中で部下の声にはっとする。
「対、織田との戦準備はどうなさるおつもりで?」
「あ……」
戦準備。
そうだ。
お宝探しに行かず、現在こうして城にいる理由は織田との戦に備えてのこと。
安芸の毛利がほぼ定期的に四国に攻めてくるその合間、たった一日や二日だが、織田から宣戦布告が届き戦を仕掛けて来ることが増えた。
わざわざ文を寄越してまで戦、もとい戦の真似事をして帰ってゆく織田軍には慣れたものだが、相手が相手なだけに俺も部下逹も真剣に準備をし、迎え撃ってきた。
そして何度目かの文が着いた矢先のこの出来事。
「……野郎共には、そのまま準備を進めるように言ってくれ」
「アニキ!?」
部下の一人が声を上げる。
戦相手の織田が壊滅状態ということを理解していないのか、そう意味を含んだ声。
「そんなに簡単に奴はくたばりはしねぇよ」
報告を理解してないわけではない。
信じたくないのだ。
「…念のため、だ」
こちらを心配そうに凝視してくる部下達に軽く笑ってみせ、心の中では悪いと思いつつも席を外した。
夕日が海に沈み夜を迎える。
結局、昼の報告以降新たな情報はなく、時だけが過ぎていく。
そして戦準備は順調に進められていた。
いつ織田が攻めて来ても大丈夫なように見張りも船の設備も万端だ。
後は待つだけ。
来るのは明日か、明後日か、あの織田の家紋を掲げた旗が、海の向こうから見えて来るのを待つだけ。
「………来るよな…?」
きっと来る。
いつも突然来ては散々に陣を荒らしカラクリを壊して、最後には一騎討ちをする。
守備が甘い、陣の配置に無駄がある、カラクリの起動が遅いなど叱咤され、しかし最後には「あの姫も逞しくなったではないか」と笑うのだ。
………信長が死んだなど、信じたくない。
「信長…」
きっと生きている。
鼻の奥がツンと痛み、閉じた目から流れるものが枕を濡らす。
そのとき、頭に何かが触れた。
「……?」
気持ちは動揺していたが、曲者の気配はなかったはず。
しかもこれは頭を撫でられている感触で、よく知る気配だった。
「!?」
まさか、と目を開けて居た人物を目に映した途端、涙腺は決壊した。
「信長!」
頭を撫でていた人物は信長だった。
戦時の鎧を身につけた姿で布団の横に座している。
「信長、信長だよな…?」
「ほう、余の顔を忘れたと申すか」
水の幕に張られた視界の中で信長は笑った。
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