SHOUT−シャウト−
第1章(9)
うつむく那音の前にギターが差し出される。
「ほら、おまえの音を聞かせてやれよ」
そう言ってアンプに繋いでいく。
「リョウ・・・でも」
那音はギターを胸にかかえたままたちつくす。
「俺のシャウト好きだって言ってただろ。あのシャウトが出たのはおまえのギターだったからだ。ナオ、おまえのギターが俺をシャウトさせるんだ」
那音の目を見つめて田辺が告る。それはまるで恋の告白のように顔を赤らめながら。
それにつられて那音まで顔が赤くなる。
「わかったよリョウ、歌って」
那音の右手がネックをつかむ。
「お、おい、おまえそのギター」
秋山の声に草薙も目を見張る。
してやったりとばかりに田辺がにやりと笑う。
なにせ田辺にHEAVENを教えたのは草薙本人である。
そしてその草薙と秋山が知り合ってこうしているのも同じくHEAVENフリークだったから。
那音のリオモデルのギターに気づかぬはずがないのだ。
ズキューン
イントロのギターの音色。
「左か」
草薙がつぶやく。
そして田辺がその那音のメロディに声をのせていく。
曲はもちろんHEAVEN。
那音の音は正確にそして完璧なまでにあのリオを再現させていた。
草薙が立ち上がる。
そしてドラムセットの前に座る。
秋山の手にした煙草も長くなった灰が落ちた。
それに気づいて灰皿でつぶす。
そして横においてあった自分のベースを引き寄せる。
「あっ」
那音の音に田辺の声、それに草薙のドラムが重なった。
そしてそのワンフレーズ後に秋山のベースも。
新たなHEAVENへの扉が開かれた。
那音のギターが田辺を追い上げていく。しなやかにそしてしたたかに。
それを援護するかのようにドラムとベースがリズムを刻んでいく。
那音の早弾きに草薙も秋山も戦慄を禁じえない。
四人の音が重なり絡み合いうねっていく。
そして那音のギターがさらに高みへと田辺の声を追い上げる。
ドラムとベースも負けじと追い上げ。
そして。
田辺の声はシャウトした。
はぁはぁはぁ
曲が終わった後も誰も声を出さない。
田辺の荒い息遣いだけが部屋を満たしていた。
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