SHOUT−シャウト−
第1章(7)
「ねえリオの歌好き?」
那音が手近なギターを取るとボロンと弾き始める。
そのギターを見るなり田辺の顔が輝く。
「お、おまえコレって」
「うん、リオと同じモデル」
と那音は言ってみる。まさか本物のリオのギターだとは言えないから。
「なあおまえって左利き?」
「ううん。でもギターだけはコレを弾いてるから。リョウも弾いてみる?」
するとちょっと悔しそうに田辺が顔を歪める。
「左用じゃ弾けないな」
「じゃあ歌って」
そう言って那音はHEAVENの代表曲を奏で始める。
音が響く。
イントロ部分のギターの音。
「お、おいナオおまえ・・・」
心に沁みる。
その音は、HEAVENの音そのもの。
なぜなのだろう、ホンモノだと田辺は感じた。
だから田辺は目を見開いたまま那音を見つめる。
ベッドの上で胡坐をかいたままギターを奏でるその姿。
音色にあわせて黒髪が揺れる。
伏目がちな白い肌が上気してピンクになっていく。
その姿をどこかで見た。
音色はリオそっくりだが、それを奏でるのは可憐な少女。
どこで見たのだろうと田辺が考えている時、那音の声がかかる。
「リョウ歌って!」
反射的に唇が動いてしまった。
リオの歌声を思い浮かべながらメロディをのせていく。
なんだか歌いやすい、自分がギターを弾いていないせいなのか。
それとも那音のギターと相性がいいのだろうか。
那音のギターにのせられて、上っていく。
上へ上へと。
だがこの先のサビの部分。
この先は自分のキーでは音が出ない。
出ないはずなのだが、那音のギターが田辺をひっぱって高みへと上っていく。
(あっ)
出た!!
いつもは出ないキーがシャウトする。
ああ、なんだろう。この快感は。
気持ちいい。
熱唱が田辺の頭の中を真っ白に染めていく。
そして。
リオが近くに感じられた。
ああ・・・・・・
「リョウっ!!」
気づくと田辺の前に那音の顔があった。
ピンクに上気した頬、興奮して瞳がキラキラと輝いている。
「すごいよリョウ。まるで、そうまるでリオがシャウトしているみたいだった」
「シャウト?」
「ああ、そうだよ。ほんとうのリオみたいだった」
そう言って那音が田辺に抱きついてくる。
「おまえの歌声・・・・・・好きだ」
好き?俺の歌声。
俺のシャウト・・・・・・
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