SHOUT−シャウト−
第1章(6)
「・・・くん、田辺くん」
誰かに起こされ、気づくともう4時間目が終り昼になっていた。
田辺の前に昨夜のタオルが差し出される。
「ありがとうコレ」
そこにいるのはやはりいつものメガネチビ。
あの日の少女のような面影はどこにもない。
「おまえ、名前何?」
田辺の問いにやっぱりと那音はため息をつく。
「ぼくは里中那音、もう1ヶ月もずっとお隣の席なんだけど」
がっかりしたように肩を落とす那音に田辺は苦笑する。
「ああ、わりぃ」
「いいよ、わかってたから。でもこれで名前わかったでしょ、ぼくは那音。ナオってよばれてるから」
「じゃあ俺もリョウでいいぜ。田辺くんだなんて背中がこそばゆい」
今現在、那音の隣には宗汰がいない。委員会で出かけているのだった。
だからこそこうして田辺と話ができる。
そうでなくとも心配性のこの親友はなにかにつけて自分を過保護にしたがるのだ。
「ねえリョウ、手をみせてくれる?」
突然の那音の言葉に田辺は怪訝そうに眉をひそめる。
「あ、ヘンな意味じゃあないんだ。前にチラっとリョウの掌が見えて。ぼくと同じだと思って」
そう言って那音は自分の右手を見せる。きれいな白い手、だがその指先は固くたこができている。
「おまえまさか」
「うん、ギター大好きなんだ」
そうにっこり笑う那音の白い面にあの日の少女がうかぶ。
田辺はその笑顔に見蕩れてしまっている自分にハッとする。
男だってイイんだよ、あの日の秋山の声が蘇る。
俺はちがうとでも言うかのように頭を振る。
「どうしたの?」
そんな自分を無邪気に見つめる那音に苦笑を返すしかなかった。
「すげぇ、コレは」
その日、授業が終わった後、田辺は誘われるまま那音の部屋に来ていた。
「人をよぶことがないからごめんね、狭くて」
金持ち校の一人部屋。とても狭いとはいえない広さがあるはずなのだが。
「そっちのベッドに座っていいから」
部屋を狭くしているのは立てかけられたギターにベースにドラムセットまで。しかもアンプやらパソコン機材やらが部屋中を覆っていた。
「ちょっちょっとコレ!」
その唯一人が座れるベッドの壁には。
「リオじゃねえ?」
興奮気味の田辺が指差すその先には。
伝説のロッカー・リオの等身大ポスター。
「ぼくの神様なんだ」
恥ずかしそうに那音が応える。
「ナオおまえサイコー」
田辺が那音を抱きしめていた。
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