SHOUT−シャウト−
第1章(3)
「ずいぶんふざけた学校だな。全室個室だってことだけでもばかげてるのに。なに、防音完備だって?」
ギターをかき鳴らす手をとめて田辺が言う。
「だからおまえを呼んだんだろうが」
スティックを腰に挟みながら草薙が懐から出したジッポで火をつける。
「あ、ずりぃ。俺も」
草薙の出したセブンスターに田辺の目が輝く。
「ナギ、俺にもくれよ」
ベースを立てかけて秋山も寄ってくる。
3本のタバコがひとつの火に集まり、いっせいに煙をくゆらせていく。
長めの茶髪を後ろでギュッと一つに結んだ草薙はその悪そうな風貌もあいまって男から見てもかっこよかった。
たまたま家が隣で小さい頃から兄弟のように育った田辺はそんな草薙の真似をするかのように後を追っかけていた。
彼が夜の街を遊びまわるようになると自分もまた彼を追いかけ喧嘩にあけくれた。
そして彼がギターを始めれば自分もまた寝るのを惜しむかのように夢中になった。
草薙は田辺にとって道標であった。
去年彼が家を出て全寮制の高校に入ってしまった時にはなんだかむしゃくしゃして夜の街を暴れまわってしまった。
片っ端から何もかもぶっ壊したくなったのだ。
だから今年受験の際に草薙が「俺のとこ来いよ」と言ってくれたのがうれしかった。
忘れ去られてたわけじゃあなかったのだと安堵した。
だが、全寮制の男子校がこんなところだったとは。
「あああっ!息が詰まりそうだ」
突然田辺が大声をあげる。
「なに一人でキレてるんだリョウ」
草薙が眉をひそめて田辺を見る。
「だってナギ、こんな学校だなんて一言も言わなかったじゃねぇか」
「こんな学校ってどんな学校だよ」
草薙が意地悪そうにニヤリと笑う。
「毎日毎日へんな目で見られるし」
「まあ外部生が珍しいんだな、俺も去年そうだったさ」
田辺がむぅっと口をとがらせる。
「しかもなんか手紙とか寄こしてくるし・・・」
「ああそれはおまえがいい男だって証拠じゃないか」
草薙が秋山と目を合わながら笑いをこらえるかのように肩を震わす。
「し、しかも・・・つ、つきあってくれだなんて」
田辺がうつむきながら小さな声でそんなことを言い出したからもう草薙も秋山も我慢ができなかった。
部屋中に笑い声が響き渡る。
「ナ、ナ、ナギ!!」
真っ赤になった田辺が立ち上がる。
「す、すまん。だってなあミっちゃん」
「ああ。でもまだリョウはこの学校に慣れてないんだからしかたないさ。ねえリョウ、初等部からこの学校にいる俺にとってはそれが普通なんだけどね」
そう言いながら秋山が田辺の肩に手を回す。
「まあ、最初は誰だってとまどうさ。俺もそうだったし」
草薙が苦笑する。
いつのまにか田辺の肩に回っていた秋山の手が田辺の首に回されまるで抱き合うかのように向かい合っていた。
「ミ、ミ、ミツグさん」
日本人形のような顔立ちの秋山は田辺より小柄で男にしては色が白い。
「男だってイイんだよ。ね、ナギ」
田辺の首に手を回したまま意味ありげに秋山は草薙を振り返る。
「ちょっ、ちょっと待て。まさかナギおまえもあるのか。男とその・・・」
田辺の問いに草薙はバツが悪そうに笑う。
「ま、なんだ、その。何事も経験だし」
「男だって女だってつっこめれば気持ちよくなるし」
「ミツグ、またおまえは実も蓋もないことを」
田辺はそんな二人の会話についていけず呆然と立ちすくむ。
秋山はクスリと笑いながら田辺の耳元にその唇を近づける。
「ねえリョウ、俺が教えてやろうか」
その囁きに田辺は真っ赤に染まる。
目の前の秋山が嫣然と笑いかけたかと思うとその唇が近づいてくる。
「ストップ」
だがあと少しというところで秋山の身体が草薙によって引き剥がされる。
「おいおい、仮にもリョウは俺の弟分だ。ミっちゃんに喰わせるわけにはいかないぜ」
チッと秋山が舌打ちする。
「リョウ、言っておくけどミっちゃんはこんな綺麗な顔してタチだからな。おまえもう少しで掘られるとこだったんだぜ」
その言葉に田辺の目はますます見開く。そして真っ赤な顔が青ざめていく。
だがその後の田辺の叫びは防音完備のこの部屋から漏れることはなかった。
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