SHOUT−シャウト−
第1章(2)
「ああ、今日も話せなかった」
ボスっと音をたてて那音は自室のベッドに倒れこむ。
彼が思うのは隣席の少年・田辺良。
この学園には珍しい外部生ということに興味を示したわけではない。
ましてや周りが騒ぐように彼の男らしく整った容貌に惹かれたわけなどあるはずがない。
小さい頃から那音の傍らにはいつも従兄の真治がいた。美形なんて見慣れている。
そんなことより那音が気になるのは。
「あの指」
男にしては細く長い指の持ち主であった。
授業中ふと隣を見るとその指の裏側が見えたのだ。
右手の親指以外の全てにゴツゴツとしたタコができていた。
あれはきっと。
「ギターを弾いている指だ」
那音は手を伸ばしてリモコンのスイッチを入れる。
そして顔をあげ壁のポスターをじっと見つめる。
「・・・リオ」
その古ぼけたポスターは早逝した伝説のロックバンドHEAVENのボーカル・リオ。
起動したオーディオからHEAVENの音楽が流れる。
那音はそのサウンドに身を任せる。
それは彼の子守唄。物心がつく前から包まれていた音。
HEAVEN、12年前ボーカルリオの死とともにそのバンドはこの世から消えた。
だが音は残る。熱狂的なファンの間で今でも伝説のバンドとして語り継がれる。
本名もそして年齢も公表されていなかったリオ。
その本名が里中梨音だということも、彼に妻と子がいたということも誰も知らない。
知っているのは彼のバンドメンバーと身内だけ。
那音はガバっと起き上がると傍らに立てかけてあるギターを手に取る。
コードをアンプに繋ぐとCDに合わせてメロディを奏でる。
それは毎日の儀式。それが彼とリオ、すなわち那音の父親とを繋ぐ絆であった。
そして。
もちろん那音の白い指の内側も固いマメに覆われていた。
コンコン
重厚な扉をノックする。
「早川です」
宗汰はここにくるたび、この学園の非常識さを痛感する。
生徒会ごときにこの豪華な部屋は必要ないであろうと。
部屋の窓を背に執務机がある。そこに座るのはこの部屋の主である生徒会長・薬師真治。
会長机の手前には生徒会役員の執務机も並んで入るのだが、今は誰もいない。もちろんいないからこそ彼が呼ばれたのだ。
「で、調べはついたのかい」
執務机でおもむろに腕を組みながら真治が問う。
「ええ。田辺がつるんでいるのは2年の草薙翔羽(くさなぎしょう)、そして秋山貢(あきやまみつぐ)」
「草薙に秋山か」
真治はその二人の顔を思い浮かべながら眉間にしわを寄せる。二人ともその素行に問題がある人物であった。
「田辺に近づけるな」
誰をとは言わない。それは暗黙の了解。
「ええ、近寄せはしませんよ」
真治が嫣然と微笑む。それに応えるかのように宗汰もにやりと笑う。
それは共犯の笑み。
「早川、わかってるとは思うが」
「ええナオを泣かせることはしませんよ」
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