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SHOUT−シャウト−
第1章(1)
いつもと同じ青い空。
いつもと同じ教室の窓。

窓から吹く春の風は気持ちよく、ついうとうとと眠気が襲ってくる。

あまつさえ隣の席から気持ちよさ気な寝息が聞こえてくるのでなおのこと。



「って、こいつちょっと寝すぎじゃない?」

高校生になってそろそろ1ヶ月が過ぎたゴールデンウィーク明け。

それなのに里中那音(さとなかなおと)は隣の少年とまだまともに話をしたことさえなかった。

興味がないわけではない。
それどころか、彼が何者なのか話をしたくてたまらなかった。

それなのに。


授業終了のチャイムが鳴る。
教壇の教師も「ここまで」とばかりに教科書を閉じ、教室から出て行く。

「ナーオ、メシ食いにいこうぜ」

教室のざわめきとともに那音に話しかけてきたのは今年10年目のクラスメイトとなる腐れ縁の友人・早川宗汰(はやかわそうた)であった。

宗汰は那音の視線に気づくと少し眉をひそめる。

「まだそんな寝太郎のこと気にしてるのか」

「ソータ、寝太郎って」

「だってそうだろう。こいつが起きているの見たことあるか?」

そう言われてしまえば実も蓋もない。

初等部からここ月宮学園にいる那音にとってこの隣の少年・田辺良は今年唯一の外部入学という珍しい存在である。

だが、田辺にとって那音の存在がはたして認識されているのかどうか。
彼にとって那音はただの隣のチビメガネ。いやそのメガネでさえ認識されているのかどうか怪しいものである。

そう考えると那音はシュンと萎れてしまいそうになる。
その姿は小柄な体型もあいまってまるで小動物のようで。宗汰は思わず那音の手を握る。

「ほら行くぞ」

「う、うん」

名残惜しそうに振り返る那音の手を宗汰はぐいっと引っ張った。





学食が完備されている月宮学園ではその大半が学園内の食堂でお昼をとる。
そうでないものも購買にお弁当を物色するため教室を出て行く。

やがて静かになった教室でその今年唯一の外部生がうつ伏した机から顔をあげた。

「うるせえな、この学校は」

すきっと贅肉が落とされ、シャープに整ったその顔が嫌そうに歪む。

「ちっ、ナギの野郎が来いっていうから来てやったが」

そう言ってごそごそと胸ポケットを探る。

「くそっ、セッタ切らしちまったか、まあいい。ナギに責任とってもらおうか」

そうブツブツ言いながら立ち上がる。

立ち上がった田辺がどこへ行ったかは誰もしらない。
そう、彼にはまだ謎が多すぎた。

そして。噂の外部生、その真実の姿を知るものはまだ誰もいない。







初等部から大学部まで一貫教育が売りの月宮学園。ここはエリートを育てているともっぱら評判の全寮制の男子校であった。

そのほとんどが初等部からの持ち上がり。つまり変わりばえのしない顔ぶれの中に突然やってきた外部生というのは噂の的になりやすい。

しかもその噂の外部生、15歳という年齢にしては老成された男らしい風貌の持ち主であった。
それはさながら檻に囲われた羊の群れに紛れ込んだ狼のようであり、さまざまな憶測をよぶのだ。


「なんでソータはぼくが田辺くんに話しかけるのをそうやって邪魔するのかなあ」

那音はズルズルとうどんをすすりながら口をとがらせる。

その様子にため息をもらす宗汰。

「ナオとあいつじゃ住む世界が違うだろうが」

「なんでそんなことわかるんだよ」

そう言う那音は小柄なこともあり、とても高校生には見えなかった。よく見えて中学生、見ようによっては小学生でも。
サラサラな黒髪に黒縁メガネ、一見ダサそうな組み合わせだが、那音に限ってはキュートに見えてしまうのは宗汰の欲目であろうか。

いやそうではない。今一人の那音信者が近づいてきたのがそのざわめく音でわかってしまった。

「ナ・オ」

「あ、真兄」

那音が真兄と呼ぶその男、学園で最大の有名人。生徒会長をつとめる薬師真治、那音の従兄である。

その昔、まだ初等部の頃。那音をいじめた子供たちを半殺しの目にあわせたとかあわせてないとか。

それほどこの男は那音を溺愛していることを知らないモノなどこの学園にはいないであろう。

まるでモデルばりの容姿のこの男の動向を追いかける数多の視線たち。

その視線の大半が那音をまた友好的な目で追いかけてはいるのだが。
中にはそうでないものもあることを宗汰は知っていた。

容姿端麗な生徒会長を偶拝するものの中には那音を疎ましく思う輩がいるのだ。

だからこそ宗汰は決して那音を一人にはしなかった。

そして敵か味方か区別のつかぬものも近づけることを阻む。
その際たるものが今年の外部生・田辺良なのだ。



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