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ハピネス
-8-
授業終了のチャイムが鳴り、昼休みがはじまった。
それぞれに食堂や購買に向かう生徒たちの間を縫って洋平は教室に戻った。
教室に入るとちょうど出て行こうとしてた大楠たちにぶつかりそうになった。
「っと」
「ったく危ねえな。んだよ、洋平じゃねえかよ」
怒鳴り上げた大楠だが相手が洋平だったのにびっくりした。
その後ろでは花道たちが昼のパンを何を買うかと話していて洋平には気づいていない。
大楠の声を聞き、洋平へ顔を向けた花道。
「洋平っ、おっせえぞ」
「悪りぃ悪りぃ。購買行くんだべ」
「おお」
五人は購買へと歩いていった。
そして何故かいつも洋平の横には花道がいる。
洋平にしてみればいつもがこのパターンで考えもしないのだろうが。
購買入り口で五人はジャンケンをして特攻隊員を決めた。
負けたのは毎度のように高宮だった。
高宮が必ず始めはチョキを出すのを知っているからで知らないのは本人ばかりなり。
ぶつぶつと文句を垂れる高宮を早く行けと促す。
購買のパン売り場はまるでバーゲンにたかるおばちゃんたちのように戦場と化している。
高宮がその戦場に入って行くのを見届けると、ダイエットにはちょうどいいんじゃねえかなどと言いながら購買から帰った。
大楠、野間の後ろを洋平は花道と歩いている。
前の二人の足が屋上に向かっているのに気づき洋平は足が重くなる。
並んで歩いていた洋平が少し後ろに歩きはじめたのに花道は気づき洋平へ首を巡らした。
「どうした?」
俯いていた顔を上げ、にこりと笑いなんもねえよと嘯(うそぶ)く。
ついさっきまで流川と体を合わせていたそんな場所はちょっと遠慮したかった。
少し様子が違うとも思うが洋平がそう言うので花道はそれ以上突っ込むことをしなかった。
花道は洋平の歩調に合わせて歩いた。
前を歩く野間たちとはどんどんと離れていった。
屋上へ行く階段の手前まで来てしまった。
階段を登れば屋上。このまま真っすぐなら教室へ行ける。
「花道、俺、今日屋上よすわ。高宮に配達頼むわ」
大楠と野間はすでに上がっていていない。
洋平は頼むなと手を上げて行ってしまった。
教室方向へ行く洋平をただそこに立ち尽くして見送っていた花道だったがすぐさま階段を駆け登ると大楠たちに向かって叫んだ。
「俺と洋平教室で食うからよ。高宮にパンの配達頼むな」
言うことだけ言って、大楠たちの返事も待たずに階段を駆け下りて洋平の後を追った。
洋平の姿を見つけると猛ダッシュで走り、覆い被さって抱きついた。
「ゲッ」
いきなり負ぶさってきた花道の体重を予想もなしにまともに受けてしまい、おまけに抱きついた腕はプロレスの技をかけられたようで息が詰まってしまった。
「……なせっ花道…っ苦しいっ……」
必死に花道の腕を外そうともがく。
「悪りぃ」
パッと花道の腕が離れ、洋平は花道へ向いた。
「てめえ、加減てもん覚えろよ。死ぬかと思っただろ」
掠れた声を出しながら洋平は睨み上げる。
すまなさそうに花道は頭を掻いている。
本気で洋平も怒ってるわけではないのでいつもの穏やかな表情を見せた。
その顔を見た花道は鼻を擦り照れ笑いをし洋平の首に腕を回した。
引っ張られるように洋平の体が花道に傾ぐ。
洋平の足が軽く花道の尻を蹴った。
「っ痛」
痛くもないが言ってみる。
「バーカ」
洋平も笑いながら言う。
教室に入り、花道の席のある窓際へ行った。
洋平は花道の机に向かって前の席の椅子に跨がった。
「お前まで付き合わなくても良かったんだぜ」
「一人よりいいだろ。それともよお、俺がいちゃ迷惑だっつうにかよ」
花道は口を尖らせる。
「そうじゃねえよ」
「それにしても高宮の奴おっせえな」
腹減ったとお腹を抑える花道。
「ありがとな」
呟くように洋平は言った。
花道がなんで着いてきたのかわかっていた。理由なんて知るわけないだろうが野生の直感というのか察して心配して着いてきたのだけはわかっていた。
が、パンを届けにきた高宮の声でそれは消されて花道には聞こえなかった。
「ん?洋平なんか言ったか」
「なんも言ってねえよ」
洋平は首を振って知らぬふりをした。
「俺はパシリじゃねえんだぞ」
「んなこといいからよ。ほらよ」
ぼやく高宮に手を出す。
花道にはこの空腹のほうが先だ。
机に手提げのビニール袋を置いて高宮は出ていった。
「あいつ何買ってきたんだ」
机の上に中身を広げた。
「げっ、あんパン。これ花道な」
洋平は嫌いなあんパンを花道の前に置いて自分はコロッケと焼きそばをさっさと取ってしまった。
それを花道が何も言わずにいるわけがない。
「すっげえ汚ねえぞ洋平。コロッケ狙っていたんだぞ」
「早いもん勝ち。あんパンの代わりな」
迫る花道を気にもせず、袋を破りコロッケパンをかぶりつく。
花道の手が洋平のそのパンを持っている手を掴み引っ張ると一口ガブリと食いついた。
花道はざまあみろと言いたげな満足気な顔。
「うめえうめえ」
三分の一しか残っていないパンが洋平に残った。
面食らったもののしょうがねえなあと思いながらその残りを食べた。
ふと、まだ流川はいるのかと思い巡らした。

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あきゅろす。
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