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ハピネス
-7-
かったるくてやってらんないと洋平は国語の授業をふけて屋上へ来て煙草をふかしている。
外はとても暖かくちょうど洋平が寄りかかり座っている所はひ溜まりになっている。
まだ気温としては寒いほうだが陽の差しているところはとても暖かい。
だだっ広い屋上のには洋平一人しかいない。
それがこの広い空間を自分が独り占めしているようで気持ちがいい。
「こんな天気のいい日に勉強なんてたりぃぜ」
二本目の煙草を吸う。
ドアの開く特有の軋む音がした。なんとはなしに顔を向けた。
網ガラスに映る人影にギクリとし、慌てて今吸っている煙草を揉み消し吸い殻を後ろへ隠した。
出てきたのは背の高い洋平の見知った奴でここの常連でもある。
「っだよ。先公かと思ったじゃんよ」
洋平が言った言葉に返事も返さず表情変えず隣に座ってきた。
「煙草くせぇ」
ポツリと呟き、洋平の膝を枕代わりにして横になってしまった。
「おい、流川?」
呼んでも起きない流川にしょうがねえなあと洋平はぼやきさっき隠した煙草をまた吸い直した。
晴天の青い空を見上げ流れる雲を眺めながらなんかすっげえよななんて思ってしまう。
学校という箱の中にいるのに今はちょうど箱の上に乗っている状態なのだから。
そんな思いに洋平が浸っているのをいつ起きたのか流川は学ランの中に手を忍ばせ、シャツをズボンから引き出しはじめた。
「っ!?なにしてんだよ」
焦る洋平は流川の手を押さえ前屈みになってそれをくい止めようとする。
「発情期だからしょうがない」
表情も変えず淡々と言葉を吐く。
「ッカヤロ。ネコかお前はっ」
流川はあいているもう片方の手で背中を撫で擦(さす)った。
ゾクリと背筋を這い上がってきた感触に体を起こしてしまった。
そうなってしまえば後は流川の思うとおりにといった具合いでさっさとシャツの裾をズボンから出し、じかに肌に触れた。
冷たい流川の指に反射的に体が竦んでしまう。どんどん上へと胸のそれに触れるまで上げていった。
「………っ」
人差し指と親指でそれを摘むとクリクリと動かしはじめた。
「……ル……っ」
やめろと言いたいが一言でも喋れば流川の手によって感じている今あられもない声を出してしまう。
流川の制服の袖を握り俯き、残っているもう片方は指を口にし噛むことで痛みと引き替えにしている。
「バカヤロッ、指噛み切る気か」
離せという流川の忠告を拒否し洋平は首を振る。
噛んでいるほうの手を掴み、俯いている洋平の顎を掴み顔を上げさせ噛んでいる指を外そうと頬に指を当て無理矢理に口を開けさせた。
やっと外した指は歯型の痕がつき、少し切れてしまい血が滲んでいる。
体をまさぐっていた流川の手指は離れはしたが、すでに洋平の下腹部は熱を持ちはじめている。
それを知られたくなく横へ移動するのを知ってか知らずか流川は腕を掴み止めた。
そして覆い被さるように顔を近づけ口づけた。
歯列を割り、舌を侵入させようと洋平の両足の間に入るようにしていた体が洋平の昂ぶりに触れた。
すかさずウエストから手を差し込みそれに触れてみた。
ビクッと洋平の体が動く。
やんわりとなぞり触れ手に包みこんだ。
「……っあ……」
重ねている唇の間からそれに反応する声を漏らすがほとんどは流川に飲みこまれてしまった。
舌を絡ませ深い口づけをする。
その間も股間にまわった手はまさぐり続けている。
その手に包まれたものは先走りの滴で流川の手を濡らしている。
先端の窪みに親指の腹を擦るようにし爪を立てた。
「……っ……」
流川は唇を離し、洋平のズボンのファスナーをおろし前を開け、先程から嬲っているものを外気に晒した。
洋平のそれは張り詰め滴を垂らし震えている。
「……イ……ク……っ……」
切れ切れの声の洋平に反して流川は意地悪く動きを止めてしまう。
洋平は根本を押さえこまれいきたくてもいけなく辛い。
「……る……かわ……っ」
名前を呼び急かすものの流川はまったく聞いてくれない。
自分を呼ぶ洋平の辛いだろう甘い声が流川の耳をくすぐり体を昂ぶらせる。
イカしてしまうのはとても簡単なことだ。だがそれを焦らして自分に懇願するひとつの服従に値するもの。支配者側の気持ち良さを味わいたかった。
流川はふつふつと沸くこの高揚感に唇を舐める。
口の中が乾き胸が高鳴っている。
笑ってしまいたいくらいおかしい気分だ。
何がどうしてと問われてもこうということは言うことはできないが支配者側に立った者の優越感から起こっているのかもしれない。
いつもなら強引ではあってもどこかで洋平を気遣かっているが今日はどこか突っ走っていると自分でも思う。
力強く胸元を引っ張られ、洋平にに再び近づく。
「バカヤロッ……」
流川のシャツを握っている洋平の手は震えている。
罵倒した洋平の股間を流川は強く握りこんだ。
「―――― っ!」
洋平から声にならない声が発せられた。
「イキてえ?」
そう流川に聞かれて蹴り上げてやりたい気持ちでいっぱいになった。
達しようとした寸前で止められた体はやりたくともできるわけがない。
「――― っやくい……かせろっ……っのクソヤローッ……」
「わかった」
そう言い、流川はズボンに手をかけ下着ごと取り払い、膝裏に手を入れ少し持ち上げ、自分も寛げると奥へと突き入れた。
いきなり挿入された衝撃に洋平の背が大きくしなる。
少し引いてまた突き、さらに奥へと進んだ。
「……っう゛っ……」
全てを収めるためにそれを繰り返す。その度に洋平の体は突き動かされていく。
痛みが洋平の体の全てを支配していた。
洋平の中に入っていく流川も狭くきつく締めてくるのには苦しさを味わっている。
全てが中に納まり流川は一旦動きを止め、洋平の体の力が抜けたその隙をついて激しく律動しはじめた。それと平行するように握っていたものも擦り上げていく。
お互いの息遣いが聞こえる。
洋平の中で高まりが頂点を兆し流川を締めつけた。
その衝撃に流川は中で放ち、洋平も流川の手の中で果てた。
汗で濡れた体を風が冷やしていく。
洋平はコンクリートに横に体を預け、学ランの胸ポケットから煙草を取り出しくわえた。
ライターがズボンのほうに入っていたのを思い出し、ただくわえていることにした。
「……ったくよぉ……」
流川は胡座をかき見下ろしている。
「約束破ったのあんただかんな。終わっちまったことだから言ってもしょうがねえけどよ」
悪びれもしない流川に諦めてため息をつく。
「ズボン取ってよ」
一呼吸置いて流川は後ろへ向き、ズボンを取ってやる。
受け取ったズボンのポケットからライターを探しくわえていた煙草に火をつけた。
ズボンを履き立ち上がると鉄柵に体を凭せかけ煙を吐いた。
「あんたらしくないってからしいっていうか唐突だよな。毎度。こんなのはじめてだったけどよ」
ポリポリと洋平は頭を掻く。
「桜木ん家に昨日行ったのか」
ぼそりと流川は大きな背中を丸めて目だけを上げて聞いてきた。
「あ?行ったけど」
「ふぅん」
なにか煮え切らない流川に洋平は焦れったくなる。
「言いてえことあんなら言えよな。俺、そういうの大っ嫌いだからよ」
人の顔をじっと見ているだけで流川は答えない。
またかよと些か呆れると同時にため息さえ出てきた。
「まいっか」
そう言い洋平は立ち上がってズボンの埃を払った。
その際にも痛むのだろう。顔を歪ませる。
ゆっくりと歩きながらドアまで行くと振り向き、
「当分お預けだからな。約束破ったのが悪りぃんだし」
決定的な一言に流川は立ち上がり、洋平の名を叫んだ。
「キスだけならいいぜ」
付け足して洋平は笑顔でドアを閉めた。
ドアの錆びて軋むその音がやけに流川の耳には響いた。

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