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ハピネス
-2-
流川が自転車を出すのにならって洋平も隣を歩いた。
車道に出ても流川は自転車に乗らず引いている。
何を話せばいいのかもわからなかったし、無理して喋ることもないしなと洋平も黙って歩いている。
もともとお喋りでない洋平だが流川はさらに口数が少ない。
普段でもそんなにも会話という会話などしないせいか、焦って言葉を探す必要もなかった。
そのまま何も喋らず流川に着いてくままに学校まで来てしまった。
流川はそのまま中へ入っていった。
洋平も暇だし、バスケ部の練習でも見てくっかと入った。
流川が駐輪場に自転車を止めるのをそのすぐ側にある鉄柱に寄っかかって洋平は待っている。
「水戸、来週あいてっか?」
「何曜日」
「土曜」
「あいてるってばあいてるけど、わかんねえよ」
「?」
「二人とも帰ってるからさ」
洋平が両親のことを言っているとわかった。
「そうか」
流川はバッグを肩にしょって体育館へ歩いていった。
洋平も逆方向だがいつも見に行ってるほうへ歩いていった。
体育館へ近づくと声とボールの音が聞こえてきた。
顔を覗かせると綾子に声をかけられた。
「なんだ水戸じゃない」
「あ、こんちゃす」
「他の連中は?」
「ああ、今日、俺一人だから」
「そうなんだ。ほらっ!桜木花道っ、なにボサッとしてんの」
洋平に気づいた花道だが三井から来たボールを顔面で受け止めてしまった。
「―――――っっ★★★」
それを見て洋平は笑い、綾子は額に手を当てている。
「ったく。集中してるときはちゃんとしてるんだけど、目の端に少しでも他のものが映るとあれだからね桜木は」
と、ぼやく綾子。「あいつ昔っからあんなっすからね」
コートでシュート練習をしている花道を見ながら綾子に言う。
「で、それをフォローしてるのが水戸なわけか」
「フォローすか?まあ、どっちかてえとほっといてる方が多いすけど」
それを聞いて綾子は笑う。
「洋平っ」
いつのまに来たのか花道が二人の目の前に来ていた。
「花道!?」
「洋平、おふくろが夕飯食いに来いってよ」
「おばさんが」
「たまには家庭の味もたしまなきゃだっつってたぜ」
「家庭の味ねえ。俺んとこは一般家庭とは程遠いからな」
「絶対来いよ。おふくろの奴、洋平来んの楽しみにしてっからよ」
言い終えるとまたコートに花道は戻っていった。
洋平にとって所謂(いわゆる)家庭の味など小学生以来食べてない。
たまに貰ったりする花道の母親が作った料理がその代わりといってもいい。彼女には洋平の家の事情も知っているせいかよくしてもらっている。
(うちの母親なんて親ってえより姉弟だよな)
戻っていく花道を見ながら自分の母親と比較してしまう。
ころころとよく笑い、子供のようにとっても無邪気な人だ。
その様子を遠くから横目で見ている流川には鼻持ちならないと言ったところだろうか。
洋平の笑顔が花道に向けられているというのも非常にムカついている原因にもなっている。
そんな流川の視線にまったく気づかない洋平は花道の動きを追っている。
「チッ」
洋平に向けたものなのか、不快のなにものでもない花道になのか、それとも自分自身にだったのかそれはわからない。

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