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ハピネス
-14-
流川は洋平の家の前まで行くと自転車を降りた。
いつも閉まっているガレージが今日は開いていた。
車も姿を見せていて、鼻歌混じりの女性がその中の一台を磨いていた。
週末に両親が帰ってくると洋平が言っていたのを思い出した。
流川は彼女に声をかけた。
「……あの、洋平君いますか」
目線よりも遥かに高い流川に一瞬びっくりしたみたいだが気を取り直し、開け広げてある玄関から洋平を呼んだ。
「ヨウちゃん、お友達ーっ」
「ちょっ、今手ぇ離せねえんだよ」
「いいから早く来なさい」
有無を言わせずに洋平を呼ぶ。
出てきた洋平は母親の隣にいる流川を見て驚いた。
「流川!?」
あれだけ言ったのだから来るわけがないのが普通だ。
その流川も洋平が姿にびっくりしていた。表情には出さなかったが。
なにせ、髪はリーゼントを下ろしていてまあこれは見たことがあるから別になんでもない。問題は着ている服。だぼだぼのTシャツ。シャツの裾から少しだけ見えるハーフのスウェットパンツ。なだけに流川の目には何も履いてなく映った。まあそれも履いてるのがわかって短い間だったが心臓はバクバクもんだ。
目の前に洋平が来ても何も言葉を発せられないでいる。
洋平の母がいなければ壁に押しつけて抱き締めてキスぐらい、もしかしたら他のこともしていただろう。
「ヨウちゃん。お友達?」
二人の間になにがあったなんて知らない彼女は無邪気に質問してくる。
「ああ。花道と同じバスケ部」
それを聞いて彼女はしきりに頷いた。
「ちょっと待ってろよ」
そう言って洋平は家の中に入っていった。
「ねえ、君、身長いくつ?」
にこにこと彼女が聞いてきた。
「187pです」
「そう。やっぱりバスケやっているせいか均整が取れてる」
と流川を触る。
「モデルやってみない?」
流川は目が点になってしまった。
「君、顔もいいし。ねえ、やってみない?」
「いい加減にしろよ。流川の奴びっくりしてるだろ」
良いところで洋平がやってきた。
「こんなとこで営業すんなよ。んじゃ、俺、ちょっと出かけてくんから」
流川の腕を引っ張ってこの場から離れた。
「悪りぃな。いきなりでびっくりしただろ」
「ああ。水戸のお袋さん?」
「そう」
初めて彼女に会った人は必ずと言っていいほど聞いてくるセリフだ。
「見えねえだろ。どっちかってえと姉貴って感じだろ」
「………」
どう答えたらいいものか流川は言葉に詰まってしまう。
「気ィ使うようなことないぜ。最初は誰でも疑うからよ。俺デキたのって薫17才ん時だ」
それにしても若いと思った。
「万年女子高生だからうちのお袋」
言い終わると洋平は前に回り引いている自転車を止めさせた。
「―――で、なんで来たわけ」
睨み上げ威圧の瞳(め)。
「あんたと一瞬にいたかったから」
「セックスしたいの間違いだろ?」
「したいけどしなくてもいい」
「マジ?」
「マジ」
表情は崩さないから顔の上ではわからないが嘘でないのは直感でわかったから体重をかけていたカゴから洋平はどいた。
「水戸、その格好あんましよせよ」
俯いて流川は言う。
「変わった格好してねえぜ」
自分を見渡す。
「それにあんたにどうの言われる筋合いねえだろ」
流川に指摘されて少しムッとしてする。
「違う。欲情心煽んだよ」
「バーカ、勝手にそっちが熱くなってんだけだろ。セックスなしで一緒にいてやんだから欲情すんなよ」
一言忠告が飛ぶ。
そのまま歩いて流川の家まで行った。
中に入ると家族は誰もいないみたいだ。
「上」
流川の家に来たのは初めてできょろきょろとしているところを流川に呼ばれた。
「他の人は?」
「みんな出かけちまってる」
流川の部屋に入った。
さすがにバスケバカの部屋らしく壁にはNBAのポスターが貼ってありバスケットボールもあった。
CDデッキからガンズが流れてきた。
ラックの中はガンズを筆頭にハードロック系の洋楽ばかり。
洋平はラックの中のCDを物色しはじめた。
中に自分も好きなBON JOVIがあった。
デッキの上に置いてある今流れているCDケースを取って、ベッドを背凭れ代わりにして洋平は座った。
流川は見下ろす欲情の髪に手を伸ばし触った。
頭を押さえ洋平は振り仰ぎキッと睨んだ。
「なんなんだよ」
意識が流れてる曲と見ていた歌詞ブックレットにいっていたもんでびっくりした。
「柔らかそうだったからつい」
触った感触はやっぱり柔らかかった。
これだけ柔らかくて下ろしたってわりかしいいのにわざわざリーゼントにしなくてもと思う。
「あんた下ろしてるほうがいいよ」
そのほうが好きだし可愛いしとまではいくらなんでも言えなかった。殴られそうだったから。
「いいじゃんよ。あんたと会ってんときは大抵コレなんだから」
また前を向いてブックレットを見はじめた。
流川は両脇に手を入れると持ち上げて自分の前に座らせて腰に腕を回して抱き締めた。
「びっくりするじゃんかよ」
洋平の肩に流川は顔を埋めた。
「怒んねえの」
「セックスじゃねえじゃん」
「細っけえの」
「育たなかったのよ」
クスクスと流川は笑う。その息がシャツを通して洋平に伝わる。
たわいもない言葉をかわして、ただ抱かれ抱いている。
この時間が洋平は気に入った。
キスすることに少し似ているかもと思った。
体がほわほわして満ち足りた気分になれる。
そのまま二人のお腹の虫が鳴くまでいた。
「何か作ろっか」
言い出したのは流川のほう。
「作れんのかよ」
笑い顔で疑いの目で見る。
「インスタントラーメンぐらいなら」
流川の答えにだよなと頷く。
「んじゃ、作ってよ」
お腹は減っている。
流川は洋平から腕を解いて部屋を出ていった。
洋平は伸びをしてベッドにゴロリとした。
「おっ、やっぱしビッグサイズでやんの」
体を起こして自分の足の先からベッドの端を見た。
「やっぱ特注なんかなぁ」
そんな疑問をしてしまう。
いつのまにかCDは終わっていた。
下の流川の様子を見てみようとヨッと掛け声をかけ、ベッドから降りると部屋を出た。
右往左往しながら台所を見つけた。
どでかい図体でガスレンジの前に立ってラーメンを作っている流川の格好がとても笑えた。
隠れて見ていようとしたのも笑いが洩れてしまって見つかってしまった。
「笑うな」
「悪りぃ」
口を押さえて謝る。
丼に盛られ二人分のラーメンが出来上がった
テーブルに二人向かい合って食べた。

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あきゅろす。
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