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平穏最後の日(完結)
12



医師が帰った後遼介が寝たのでそのまま恭介も寝てしまったらしい。
外からの声で起きる。

「入るぞ」

入ってきたのは二人の父である謙介だった。
謙介の表情は厳しい。遼介の寝ている布団の横に険しい顔のまま腰をゆっくりと下ろした。


「話は聞いた」
「ああ」

「すまなかった。マリーがあそこまで遼介に執着しているとは、俺の考えが甘かった」

恭介は目を見開いて驚きの表情のまま固まった。
いつでもどこでも皆の上に立つあの父が自分に頭を下げたからだ。
父のこんな姿を見るのは初めてだった。

「頭上げてくれ。それに下げる相手が違え」
「そうだな。でもお前にも迷惑を掛けた」

謙介はすうすうと眠る遼介の頭を撫でる。


「マリーは国に帰す」

「…………」

「本当はそれなりの処罰が必要だが、向こうを敵に回すことは遼介やお前たちのためにはならない」
「分かってる」
「一人で帰ることに承知しないだろうが、向こうにすでに話はして二度と日本には戻ってこないよう頼んでおいた」

随分と行動が早いと恭介は謙介を見る。謙介は顔を歪ませて笑っていた。

「あそこは過保護だな。四十の娘でも帰って来てほしいらしい」

「なるほど」

だから、マリーが反抗する前に向こうを味方に付けておこうと先手を打ったのだ。
やはりこの親父は侮れないと恭介は薄く笑った。


「そういやここを出るのか?まあ仕事をしてくれるなら構わないが」
「遼が治ってこことちゃんと向き合えるようになったら戻ってくる」
「それがいいだろうなぁ、別に慌てなくても逃げるわけじゃねえからゆっくりやってこうぜ」

二人の会話が耳に入ったのかもぞ、と遼介が動くのを見て謙介が腰を上げる。

「んじゃまあ、俺は戻る。俺のことは知らないままだろうから遼介が落ち着いたら改めて会おう」

「分かった」

立ち上がり襖に手を掛けたが「そうそう」と振り返る。

「遼介の写真定期的に送ってくれ」
「は?」
「やっと可愛い息子見られたんだから、これからの成長も見たいだろ」

はー、と息を吐くが目の前の父が本気なのは分かっている。

「分かった、相馬にでも頼んでおく」
「おー楽しみにしてるぜ」

そう言ってやっと立ち去って行った。
意外と親ばかの面を知り面倒くさそうにメールを打つ。部下の仕事を増やしてしまったが上からの命令なのだから仕方がないとしよう。
そして何気なく遼介を見遣ると起きてじっとこちらを見ていた。

いや、焦点は合っていないようだが、確かにこちらの方は向いている。

「おはよう遼」

話し掛けて返されるものが無くとも絶対に無駄ではないはずだ。
起きたばかりで喉が渇いているかと思い水を与えれば抵抗すること無く飲み干した。

「えらいぞ」

よしよしと頭を撫でる。
そこでふと撫でていた手が止まる。そういえば”あれ”はどうすればいいのだろうか。
困ったが避けて通ることは出来ないので、覗き込むように視線を合わせて優しく誘う。


「トイレ、行ってみるか」

置かれているシャツと下着を適当に着させ立たせると、何とか支えてやれば自力で歩けたのでそのままトイレへ向かった。



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あきゅろす。
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