平穏最後の日(完結)
3
次の日起きてはみたものの状況は全く変わっていなかった。
もしかしたら夢かもしれないという儚い希望は一瞬で打ち砕かれる。
かちゃりと鳴る足枷に首を這いまわる冷たい首輪。まるで奴隷か何かになったようで今度は何をされるのかと自然と体が震えてきた。
『おはよう遼介』
はっと顔を上げれば笑顔のマリー。いつもならこの顔が嬉しいはずなのに今はすごく怖い。
『お、はよ』
『朝ごはんよ、遼介の好きなベーコンエッグにしたからね』
『そう……』
こんな気分で食べろと言うのか。
もそもそとベッドから這い出すように出て、小さなテーブルに置かれたプレートを見る。
確かに美味しそうな朝食だ、これを食べたら元気に学校に通う。それも昨日までの話だ。
学校に行くことはおろか外に出ることすら叶わない。
怖い。
生まれてから昨日まで大事にされて育ててもらった大好きな母が怖い。
『あらっ』
『な、何っ?』
マリーの声に敏感に反応する。
『まあまあ遼介も男の子ねー朝だものね』
ちょんと触るマリー。
生理現象とも言える「朝勃ち」を指摘されて小さく悲鳴を上げた遼介が慌ててそこを隠す。
『や、やだ!やめろ!』
『――何言ってるの?そんな言葉使っちゃダメでしょ』
一瞬ぞっとする程冷めた目をした後いつもの笑顔で朝食を小さく切り分ける。
『はい、あーん』
『一人で食べられるよ』
『もう、小さい頃を思い出してたのに』
フォークを渡せば遼介はそれをぱくぱくと食べ始める。先程まで食べたくなさそうにしていたのに子どもは扱いやすい。
いつまでもこちらを向いてくれない謙介とは違うとマリーは満足そうに眺めた。
『美味しいでしょ?』
『ん……美味しい』
もぐもぐと無心で食べる。これさえ食べ終わればきっとしばらくは放っておいてくれるだろう。
これさえ。
必死に食べる遼介を綺麗な笑みで見つめるマリーは腕時計をちらりと見遣る。
――そろそろかしら。
『ごちそうさまっ』
『はい、じゃあ食器片付けてくるから』
さっさと出て行くマリーに拍子抜けしたものの、何もされずに安心する。
――良かった。これでお昼まではきっと大丈夫。
どくんっ。
そう思った矢先、何故か異常に汗が出ているのに気が付いた。
暑い季節だとは言ってもここは室内でエアコンのスイッチも先程入れたはずで、こんなことはあり得ない。
「はっ……はあ……」
何が起こっているのか何が原因なのか、心臓の音もやけに大きく聞こえてきて遼介は軽くパニックを起こす。
両手で体を抱きしめるようにし腕を擦って落ち着かせようとする。
しかし次の瞬間。
「は…はは、はははっ!」
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