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平穏最後の日(完結)
2



「…………ん」




辺りがすっかり暗くなった頃遼介は目を覚ました。しかし置かれている状況が理解出来ず目を擦りながら見渡す。
どうやら自分の部屋にいるらしいが、ここまで来た記憶が無い。電気の付いていない部屋は微かな外からの光のみで随分薄暗い。
ふと違和感を感じて足元に視線を遣る。


「何、だこれっ……」

がちゃん、と部屋に不釣合いな金属音が響く。
音の先を見てみると足首に枷が一つ付けられており、そこから鎖が伸びていた。
それ以外何かされたような形跡は無いが、意識が無いうちにそうされたかと思うと一気に恐怖が襲う。

――何が起きた?強盗?

「そうだ……ムッティ」

母は無事かと辺りを見回すが、この部屋にはいないらしい。

「くそっ」
かちゃかちゃと枷を外そうと試みるものの素手でどうにかなるものでは無い。
携帯で誰かに連絡をと思ったがポケットに入っていたはずの携帯が見当たらず途方に暮れる。
足枷はかなり短くドアまで歩いて行くことも出来なかった。

「はあ……」


どれだけそうしていただろうか、何故か部屋の中には時計も無く何時なのか分からない。
ベッドの横に目覚まし時計を置いていたはずなのに持ち去られたらしい。
そんなことをして何の意味があるのだろうか、考えても答えは出ないので今は何も考えないことにした。

「夕飯食べてからだから今は夜遅い時間てことだよな。まさか一日経ってるとか……はさすがに無いか」

その時かちゃりと音がし、はっとその方向を凝視する。
そこにはマリーが立っており、部屋の電気を付けられいきなりの光に目をぱしぱしさせる。

「遼介」

「ムッティ!良かった無事だったんだ!俺何が何だか分からなくって」

縋るように両手を広げれば、マリーは遼介をそれは優しく慈しむように抱きしめた。

「大丈夫よ。ずっと傍にいるわ」
「ねえこれ外せる?誰かがこんなの付けて」

「それはダメなのよ」

「何、で……」訳が分からず呆然とした様子でマリーを見つめる。
それに構わず微笑みながら遼介に放った。

「こうでもしないと何処かに行ってしまうでしょう」
「意味が分かんな……」
「だって高校も私の言うこと聞いてくれないしあの人が迎えに来てしまうわ!」

あの人って誰だ、自分はこんな仕打ちをされる程に反抗した覚えも無い。遼介はひどく混乱した。
マリーは遼介の頭を撫でて言う。

「大丈夫。言うこと聞いてくれればいいだけだから、もう今日は遅いから寝なさい」

このままでは本当にここに閉じ込められてしまう。遼介は焦ったように言った。
「あ、トイレ!トイレ行きたい」

目を丸くしたマリーが「そういえばそうねぇ」と呑気に言うが「出せるもの持ってこようか」と言い出し始めて遼介は真っ青になる。

「やだ……トイレでしたい、です」

「じゃあ仕方ないわね」
「ありがとうっ」

この枷を外してもらえると安心したのもつかの間、足枷を外す代わりにと両手を一まとめにした手枷を付けられ、そこから伸びた鎖と始めから付けられていたらしい首輪の先とを繋げられた。

この人は本気だ。

遼介は絶望に似た何かを全身で感じ取る。



トイレには無事到着したが抵抗したところで勝てないと悟り、結局何も成果も得られず部屋へと戻り足枷を付けられた。
かちゃかちゃとなるそれをぼーっと見る。

――どうしてこんなことをするんだろう。

どこか嬉しそうなマリーに僅かな恐怖を覚える。

『そうそう、二人きりなんだもの。日本語は使わないでね』
「え……どうして」
『ね?必要無いでしょう?』
『……はい』

選択の余地は無かった。



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あきゅろす。
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