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平穏最後の日(完結)
16



「失礼します!」


「ああ、気をつけてな」

園川が事務所の下まで見送ってまた戻ってきた。
事務所のドアを開けてみれば自分の上司が黒いオーラを発していており、これで息が漏れないわけがない。
顎でくい、と合図する。こちらへ来いということらしい。


「どう思う」

「何のことでしょう」

久遠の眉間の皺がまた一つ増える。

「分かってんだろうが、遼介だよ」

「遼介君に誰かさんが愛想でも尽かされたんじゃないですか」

どかん!!と盛大な音を立てて久遠が机を下から蹴り上げる。
少々冗談が過ぎたようだと、いちおう反省した園川は「失礼しました」と謝りながら改めて話し出す。

「まあ、おかしかったですね」
「ああ」
「正確に言いますと、久遠さんに対しての反応と言うべきでしょうか。本当に何もしてないんですか……と言いたいところですが、遼介君の性格からして何かされたとしてもあんな無反応が出来る子ではないですし」

「何もしてなくはないが関係ねぇし」と久遠は窓の外に視線を移し、つい先ほど出て行った少年のいるであろう方向を見つめる。

確かに園川の言うとおり、斉藤と話している時は違和感を感じられなかった。
無意識で避けるとはどういうことだ。

答えの出ない憤りに固く結んだ拳が震える。
自分は意外とあの少年を気に入っていることに気が付き、自嘲の笑みが漏れるのだった。




「うーん、中々外に出てこないな」

久遠たちの事務所から数十メートル離れたカフェの中、ちりんと涼しげにアイスコーヒーを揺らしながら一人ごちる。田川だ。

「久遠が苛々してんの見てみたかったのになぁ」

残念、と言う割ににやりと悪い笑顔を貼り付けたままの田川は、かなり自信があるらしい。

「おい兄貴、早くしてくれよ」

笑う田川の前にいる男が言う。
平均身長を上回る体躯であるもののひょろひょろとしたイメージの外見をする男は、顔を覗けば意外にも若く、少年の域を脱していないのかもしれない。

「ああごめん。これだろ」

「そうそう、サンキュー!」

テーブルの上に置かれた袋を手にしてお礼を言う。
この中には例の薬が入っていた。

「それ一粒ずつで大丈夫だからな。効き目は強くないけど副作用ないから、持続して使えて結構便利だよ」

「へーこれがなー。知り合いが使いたがってたから、良かったぜ」

袋の中を覗きながら言う田川の弟は不思議そうに薬を見る。

「今うまく行きすぎてどうしようかと思ってるくらいだよ」

そう田川が言うと、弟が冷たいグラスを持ちながらぶはっと噴き出して笑う。
その笑顔はやはり兄弟、兄によく似ていた。

「すげーな、そんななのか。知り合いもきっと喜ぶぜ」



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あきゅろす。
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