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平穏最後の日(完結)
14



田川と別れて歩き出した遼介だが、ふといつもと違う自分に気が付く。
何やら体が浮ついているような心もとない感じがするのだ。

「何だろう」

心臓がやけにどきどきしている気がした。




その後も週に一、二度は田川と会う機会があり、そのたびに田川の家に連れて行かれた。

田川は様子を見ながら、遼介に気付かれない程度に薬を何度か使用した。
すでに田川の家で遊ぶということが当たり前に感じていた遼介は疑問に思うこともなく、時間が合えば手料理を食べさせてもらうこともありすっかり田川に懐いていた。

「守さん、このドリアおいしいです! いいなぁ、料理が出来るなんて」

「ありがとう。そんなことないよ、普段はあり合わせを適当に食べてるだけで。遼介君がいるからはりきって作ってんだよ」

遼介のため、そう言われた遼介は恥かしくて嬉しくて複雑な心境なものの、満面の笑顔だ。

「嬉しいです」

「俺も遼介君に会えるのが嬉しいよ」

――俺と会ってる分久遠から離れて行くと思うと余計にね。

そこへ遼介の携帯が震え始め存在をアピールしだす。
数度鳴っても止まないということは電話のようだ。

「すみません、失礼します」

「いいよ気にしないで」

上手くいっているこの状況に満足している田川は余裕の表情で遼介を見つめている。

「もしもし、あっ園川さんこんにちは。今日ですか? 今日はええと―」

どうやら電話は久遠の仲間かららしい、園川という名前に田川は聞き覚えがあった。
遼介は田川と会っているため断らないとと思っているようだったが、良い機会なのでそろそろ事務所にわざと行かせて久遠の反応が見てみたい。

そう思った田川は遼介に小声で耳打ちをした。

「遼介君、実はこのあと仕事がちょっと残ってて会社に行こうと思ってたんだ。お友達なら行ってきたらいいよ」

田川の言葉に驚いてちらりと田川を見遣る遼介だったが、すぐに意識を携帯へと戻す。

「はい、ちょっとしたら伺います」

一言二言会話して電話を切った遼介は、お礼を言いながらもどことなく淋しそうだ。
つまり事務所に行くよりも自分といたいのか、そう結論付けた田川は高揚する気持ちを抑えることが出来ない程だった。

「仕事なんかより遼介君といたいんだけど、ごめんね」

髪の毛を優しく梳くと、遼介は猫のように目を細めてくすぐったそうに笑った。

「大丈夫です、お仕事お疲れ様です」

田川と別れた遼介は事務所へ歩きで向かっていたが、途中で黒塗りの車が徐行したかと思うとすぐ横で停車した。


「遼介君、丁度会えて良かった」

「園川さん! 有難う御座います」

遼介が車に乗り込み二人で事務所に向かっているが、園川がやけに上機嫌だ。
きっと昔なじみの者たちが今の園川を見たらさぞかし驚くだろうが、隣の遼介は初対面の真面目な感じか今のようなにこにこした顔しか知らないため、いつも通りだと特別おかしくは思わなかった。



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