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平穏最後の日(完結)
13



「遼介は久遠より俺が好き」

「久遠から離れたくなる」

「俺と会う時はこの場所で」

「俺の家に来ていることは誰にも言わないこと」

「起きたらこのことは全部忘れるけど、心の底で覚えていてね」




遼介が気付いた時には太陽がすでに傾いていた。

「……ん」

寝返りを打った時に窓から差し込む夕日の眩しさでわずかに瞼が震える。

「あ、遼介君起きた?」

「え……あれ、ここどこ」

まだ完全に目が覚めない遼介は、目を擦りながら状況を理解しようと頭を回転させる。
その様子に田川から笑みが零れる。

「疲れたからって寝たんだよ、覚えてないんじゃよっぽど試合疲れたんだね」

「そ、そうだったんですか……すみません」

初めて来た家で爆睡なんて失礼なことをした、と赤くなりながら謝る遼介。
ゆるく微笑む田川に遼介も肩の力が抜けるが、はっとして携帯で時間を確認する。
よかった、まだ夕飯まで時間があるし連絡が着た様子もない。田川はそんな遼介の行動を見て問いかける。

「もう夕方だから何か作ろうかと思ったけど、休みの日だからご家族と食べるかな?」

「あ、はい。ちょっと連絡してもいいですか?」

携帯を見せて聞く遼介に、「いいよ」と声をかけてキッチンに入っていく。
お礼を言いながら家に連絡を入れる。

今日は遅くなる場合は迎えに行くと言っていたので、おそらく運転手の誰かしらはいるはずだ。

『もしもし』
「遼介です」
『遼介さん! お疲れ様です、部活は終わられましたか?』
「はい、今から帰るんですけど、家の近くなので歩いて帰ります」
『かしこまりました。お気をつけください』

携帯を切ってほう、と息を吐く。
迎えに来てもらってもよかったのだが、さすがに近場の家なのに車で迎えに来るのは田川に驚かれるかもしれないと思い、歩いて帰ることにした。
元々部活で歩いて帰る予定だったし、特に問題はないだろう。

「電話終わりました。今日は遊びに来たのにすみません」

遼介がキッチンに向かって呼びかけると、田川がひょこっと顔を出した。

「別に大丈夫だよ、また暇な時来てね」

「はい。遊びに来ます」

田川は内心にやりと笑う。

さっきは家に来るのを渋っていたのに、今はどうだ。

この薬は判断力を低下させるだけの薬で下手な副作用はない。また、切れてしまえばその時の記憶も無くなる。
しかし、そこに何度も同じことを囁いてみろ。いつの間にかまるでそれが自分の考えかのように思えてしまうのだ。一種のサブリミナル効果と言えよう。
実際薬の名前もまんまそれだ。


「じゃあ、またね遼介君」

「また今度。今日は本当有難う御座います」

田川が遼介の頭を一撫でして二人は別れた。
ぱたんと閉まったドアにもたれかかり、今までいた彼の温もりが残る右手を見遣る。


「―今日は実に良い日だねぇ」



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あきゅろす。
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