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平穏最後の日(完結)
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「おー久しぶりじゃねぇか遼介」

「おかえりなさい!」
「「お疲れ様です」」
「お疲れ様っす」

それぞれが久遠を出迎え、ソファまでの道を開ける。
遼介がいるからか久遠も機嫌が良いようだ。

「遼介ェ」

「は、んあっ?」

ソファへ座る前に遼介の髪の毛を掴んで強引に上を向かせ、口付ける。
あまりの自然な流れに遼介は何が起こったのかよく分からずきょとんとしているし、園川たちも呆然だ。

あれか、キスの挨拶は無くなっていなかったのか。

園川が帰ってきて誤解が解けたところで何もかもがチャラになったはずなのに、久遠はそんなことお構いなしのようだ。
また遼介もキス自体は母にも兄にもされていたことから、久遠からのものも慣れてしまった可能性がある。
上司だからと言って遠慮している場合ではないのかもしれない。

園川は無言で闘志を燃やしていた。







「うあー疲れた!」

今日は近隣の高校との練習試合だった。
レベルで言えばこちらの方が上であったが、個人レベルで見ると向こうにも技術を持つ者が何人かおり、夏の大会に向けてもっと身を引き締めていかなければならない。
勝ち試合ではあったが、きっとこの反省を含めてさらに練習が強化されるだろう。

「相手のレベルも上がってきたな」
「うん、もっと作戦を変えていかないと厳しくなってくるかもな」
「スリーポイントはここで入れとかないと」
「リバウンドは向こうもうまくなってきたよな」

部員たちであれこれ今後の話をしながら帰り道を行く。
今日は練習試合だけで流れ解散だったので、最寄駅で降りて最後まで一緒だった坂本とも途中まで歩いたところで別れた。
二人は小学校から一緒なのだが、遼介が引越したことで少々家が離れてしまったのだ。

それにしても疲れた。
練習試合をしただけだから普段の部活より運動量はないはずなのに、昨日までの練習疲れと今日の試合での精神的な疲れが一気にきたような気がする。
今日はこのまま帰ったら一回寝てしまおう。

重い体を引き摺りながら寝ることで頭をいっぱいにして歩く。
そうしてもうすぐマンションというところで、スーパー横の自販機の前に見たことのある影がす、と通り過ぎた。


「……守さん?」

ふと独り言のように呟いたのだが相手にはどうにか届いていたらしく、ばっと相手が振り向く。
驚いた田川は目を見開いてこちらを見ていた。

「遼介君! 近所だからかよく会うね。試合の帰り?」
「はい」
「そっかお疲れ! これ今買ったところで冷えてるから飲みなよ」

つい、とカップに入った飲み物を渡される。
悪いと思ったが、せっかくなので「有難う御座います」とお礼を言いつつ一口飲む。

「もう今日は部活ないの?」
「はい、今日試合だけだったんで解散しました」
「じゃあ今暇? 家来る?」
「いや、家……は……」

断ろうとしたのに何故か言葉が浮かんでこない。

「どうする?」

「え……い、え?」

疲れたのか、前のように風邪なのだろうか、田川が何か言っているのは分かるのに内容が理解出来ない。

ぐらり、と地面が揺れたような気がした。



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あきゅろす。
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