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平穏最後の日(完結)
遊園地は怖いです7



遼介の勘違いに感謝し、ここぞとばかりに強く握り込む。
これで少なくとも繋いでいる左半身に幽霊たちがやってくることはない。久遠は全身全霊を込めて右側を仕事時ばりの眼力で睨み続けた。

「ねえ……あたしの足……ひぃっ!」

大の男が手を繋いでいるものだから、異常な怖がりなのだろうと判断した幽霊役がここぞとばかりに渾身の演技で久遠に近づいたのに、暗がりで分からなかった殺人的睨みを間近で見てしまい悲鳴が漏れる。

「くそがぁ……ぶち殺してやる……!」

実際は泣きそうになるのを我慢しているのだが、凶悪な顔面に充血した瞳を纏って呟く言葉も恐ろしいとくれば、幽霊のプロといえどこれ以上近づくことが出来ない。
いくら仕事でもこんな恰好で死にたくない。

すす、と後ずさりしてそっと逃げていく幽霊を久遠は涙を浮かべながら、唇を噛みしめ視線の隅で確認した。

――直接凝視すると夢に見るからな……。

どうやら怖くて正面から見ることは出来ないらしい。

勢いでぎゅう、と遼介の手を強く握ってしまうが、当の遼介は久遠の幽霊嫌いを知らないため単純なスキンシップだと思っていた。
遼介も屋外で久遠とくっつけることが満更でもなく、久遠がしたようにぎゅう、と握り返す。




「死ね……ここに存在するくそ幽霊ども皆死ねぇ……!」

遼介とは反対方向を向きながら恐怖の呪文を唱えて歩く。
もはやどちらが脅かし役か分からない程で、負のオーラが禍々しく立ち上っていた。

そのおかげで後半になれば幽霊が久遠に必要以上に近づくこともなく、徐々にゴールが見えてきた。

だがしかし、久遠の限界も近く、異常に汗が吹き出し始める。

さすがの遼介もそれに気が付き、久遠へ顔を向けた。

「詠二さん、大丈夫?」

「おう……」

一言答えるのが精一杯な久遠を見て、遼介が目を丸くした。

こんなにも弱っている久遠は珍しい。繋いでいた手を逆の手に持ち替え、空いた手で久遠の背中を擦りながら歩き出した。
久遠が慌てる。

――やべぇ! 気付きやがったか?

思えば思う程汗がどんどん出てきて、明らかに修復不可能な状態に陥った。
どう言い訳したらいいのか、幽霊が怖いなど遼介でも引いてしまいそうで久遠は引っ張られながら困り果てる。

ゴール手前で待ち構えていた幽霊に驚く暇もなく、二人は外に飛び出した。

いろんな感情がぐるぐる駆け巡る久遠に向かって遼介が口を開く。

「詠二さん」
「言うな。それ以上何も言うんじゃねぇ」
「大丈夫。分かってるよ」
「分かってくれるな」

ああ、ついにバレる時が来てしまったらしい。
誰一人として知らない秘密を、よりによって最愛の遼介に知られてしまった。

がっくり肩を落とす久遠に遼介が眉を下げて言う。

「体調悪いんだろ? こんな汗掻くまで無理して付き合わせてごめん!」



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