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平穏最後の日(完結)
遊園地は怖いです6



「はい、チケット大丈夫です、ね……二名様、いってらっしゃい……」

入口前のチケットチェックのお姉さんまで看護師の制服を身にまとっているだけでなく、口調も暗くてすでに不気味だ。

幽霊の看護師という設定なのだろう。
並んだ時からアトラクションが始まっているという意識の高さは経営的には合格だろうが、久遠にとっては殴りたい衝動に駆られるだけである。

とてつもなく殴りたい。

誰でもいいから殴りたい。

「こんな時に斉藤がいりゃ殴んのによ……」


「ぶえっくしっ!」
「何だ、風邪か?」
「いや、噂されてるんすよ。いやぁ、俺モテるなぁ」
「妄想も大概にしろ」

斉藤は、事務所で盛大に久遠からの熱烈な想いを受け止めていたとかいないとか。







「待って……」

「ああ?」

現在、久遠は遼介とともに数々の幽霊と対峙している。
全力で人を殴り倒す眼差しで対抗しているものの、暗いから久遠の顔が見えないのかプロ根性からか、幽霊側が恐れることはなく渾身の演技を持って脅かしに来てくれている。

それはもう、悲鳴を上げそうなくらいに。

前回の恐怖DVDとは違い歩かないといけないので、目を瞑っていれば転んでしまうため悲鳴を上げる以上の恥をかくことになってしまう。

「うお〜……結構本格的だな。次こっち? さっき行って行き止まりだったっけ?」
「怖いなら手ェ繋ぐか?」
「いや、大丈夫!」
「…………」

久遠が大丈夫じゃなかった。

遼介が面白がりながらも「怖い怖い」と言うものだから、これ幸いと手を繋いでもらおうと提案したのだったが、一瞬で拒否される。
非常にまずい。

誰にも見えていない程暗いのをいいことに、本格的に震え始める。

――くそが! 幽霊っつっても、こいつらバイトだろ? 人間なら殴れるし、殴っちまうか。

思考が完全にいかれてしまった久遠の腕に、ふと温かいものが。


「……っく」

背筋をうすら寒いものが走り去り悲鳴を上げそうになる。しかし、その後違う意味でぞくぞくしたものが背筋を這うことになる。

「あ、いきなりごめん。さっき手繋いでくれるって言ったから、せっかくなら繋ぎたいと思ってさ……外だとあんまくっつけないし」

何と、犯人は遼介だった。

しかも、久遠の「手を繋ぐ」という科白をかなり良い方向に誤解してくれているではないか。
これに乗らない手はない。

「あ? そうだな。俺は普段だって構やしねぇが、遼介が困るだろ」

「う……それを言われると。気遣ってくれてありがと」



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