[携帯モード] [URL送信]

平穏最後の日(完結)
遊園地は怖いです4



「何だったんだ……?」

事の次第を全て理解していない遼介は、いきなり去っていった女たちをぽかんと見つめる。
しかしまあ、話しかけられて困っていたところなので、向こう側からいなくなってくれるのであれば、断り文句を考えなくて済んでいい。

以前、逆ナンパに慣れていなかった頃は、何故声をかけられているのかさえ分からず、困って担任の山崎に頼ってしまった恥ずかしい思い出もあったりする。
さすがに何度目かで「これはナンパというものか」と気が付き、とりあえず断ることにしている。
曖昧な返事は肯定と取られかねない。

どんな美女が来ようが、どんな甘い誘惑があろうが、隣にいるのはいつも久遠で、ずっと先の未来も久遠と決めている。

というより、すっかり久遠以外「そういう相手」として興味を失くしてしまった。
友人や家族は大事で大切にしたいとは思うが、誰かを見てときめくこと自体頭が拒否しているように何も感じなくなったのだ。

昔から色恋沙汰とは無縁だったものの、「女子は可愛い」とは思っていた。今も思っている。
しかし、可愛いの種類が変わった気はする。

――詠二さんは可愛くないけど……可愛いかな。

その代わり、こうして久遠に「可愛い」と思うことが増えてきた。
見目そのままではなく、”そう”感じてしまうのだから仕方がない。これが、人を好きになるということだ。

例えば、今みたいに知らない人と会話しただけで不機嫌になるところも、顔は道行く人々が悲鳴を上げて横にずれる程怖いのに、遼介にしたら可愛らしく思えてくる。

大股で歩いてくる久遠を、笑顔で出迎える。


「おまたせ。昼でも食べる?」

まだ何もアトラクションには乗っていないが、ゆっくり来たためすでに十一時を回っている。
人気のレストランともなれば十一時半には何十分も待たなければならないくらい込んでしまうので、今の内にゆっくり食事した方がいいだろう。

久遠は、いつ食べようが何に乗ろうが、ホラー迷路以外頭に無いので、遼介の言う通り昼食を先に済ませることにした。

レストランと一括りに言っても何か所もあるため、何処にしようかパンフレットを悩みながら見つめる遼介の後姿を、こっそり久遠が写メに撮る。

普段、写真など一切撮らない久遠であるが、さすがに今日の遼介のもの珍しいウサ耳姿には心打たれるものがあったようだ。
遼介が久遠の帽子姿をあれだけ撮りたいとせがんだ気持ちも、少しだけ分かった。

そっと待ち受け設定にしてみる。

誰も、久遠の携帯画面など覗くような図太い精神の持ち主はいないので、バレることもないだろう。
万が一バレても、記憶が無くなるまで殴り倒すので問題無い。


「昼飯、決まったか?」

何もしていなかった風に遼介の後ろからパンフレットを覗き込む。

「イタリアンとハンバーグで迷ってる。詠二さんは何か食べたいものある?」

「腹に入りゃ一緒だ。どっちも食いてぇなら、ここにすんぞ」

「なるほど!」

久遠が指したのは、ビュッフェレストランだった。





「ひっろーい!」

友人とここの遊園地には何度か遊びに来ていたが、ビュッフェを食べるのは初めてだ。
たいてい、アトラクションにいくつ乗れるかが最優先事項になるので、腹が減ったら軽食を買って食べ歩くのが常だった。
遊園地のレストランなのに、ホテルを思わせる高級感あふれる内装に遼介が感動する。



[*前へ][次へ#]

6/10ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!