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平穏最後の日(完結)
遊園地は怖いです3



「そんな入ってねぇよ」

嘘だ。

確実に両手の指の数をはるかに上回る札が入っているのは分かっている。
さすがに「一本」は物理的に入っていないだろうが、もしかしたらその半分くらいはあるかもしれない。

そんな恐ろしいものを受け取ることは絶対に嫌なので、瞳を見開き歯を見せて全力でお断りをした。

そこまで拒否されると思っていなかった久遠は、「変な顔だが、これはこれで可愛いな」などと思いつつ、仕方なく財布をポケットに戻す。

というか、心配で心臓が持たないので、大金をすぐ落としそうなポケットに入れておかないで頂きたい。


「……んじゃ、気を取り直してホラー迷路のパス取りに行こうか」

「あー……そうだな」

まだパスを取りに行くだけなのに乗り気になれない久遠を、引っ張る形で進んでいく。
付き合いたての頃は遠慮することもしばしばあったが、もう一年も経てば慣れて付き合い方も分かってきた。



半目になりながらしぶしぶ付いていくと、遠目からでも分かる程どでかい廃墟が現れた。

「迷路って言ってなかったか」

「うん、迷路」

――これのどこが迷路だ。可愛らしい言い方をしやがって、責任者呼んでこい!

と、今にも叫びそうになる。

遼介の説明によれば、テーマは古びた廃墟で、中が入り組んでいくつもの分かれ道がある迷路になっているらしい。
途中で間違えた道を行けば戻らなければならず、もしそこにおどかしゾーンがあれば再度通らなければならないというわけだ。

つまり怖さ倍増ということで、本当にここに責任者がいたならば違う意味での「脅かし」をやってしまいそうだ。

廃墟に一発鉛の玉をぶっ放す勢いで見つめる。その間に遼介が二人分のパスを取りにいった。


「くそ……」と殺人オーラで苛々していると、きゃいきゃい明るい会話が聞こえてくる。

「あのー、お一人ですか?」
「いえ、二人です」
「もしかしてお友だち? だったら、私たちも二人だから一緒に遊ぼうよー」

ナンパだ。分かりやすいナンパだ。
ちょっと離れただけなのに、遼介が思い切りナンパされている。

しかも、久遠が目撃したのはこれが初めてではない。
話しかけやすいのか、一人にしておくとたびたびナンパされてしまう。

それを見て「俺の遼介はさすがだ」などと思うはずもなく、全身全霊を込めて殺意を飛ばしにかかる。

二人の内一人が久遠の視線に気が付き目線だけ流す。
そこにはガタイの良い鬼が、呪われそうな程こちらを睨んでいる恐怖としか言えない光景が広がっていて、目が合った女は「ひぃっ」と小さな悲鳴を上げた。

「あぁっええと、忙しいですよね邪魔ですよね! 失礼しましたぁ!」
「ちょっと、いきなりどうしたの」
「いいから行くよ!」

関わってはいけない類の人間だということを瞬時に悟り、まだ渋っている友人を連れて逃げ足で去る。

訳の分からない遼介は首を傾げるばかりだが、後ろの久遠は満足そうに一つ頷いていた。



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あきゅろす。
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