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平穏最後の日(完結)
遊園地は怖いです



「行かないって言ってたじゃねぇか」

「うん。でも受験終わったし、このアトラクション今月までだからさ」

にこにこする遼介の隣で、どでかくそびえるおどろおどろしい扉を内心パニックに陥りながら見上げる久遠がそこにいた。



そもそも今日はただの土日で、買い物にでも出るかと言っていたはずだ。どうしてこうなった。

確かに「天気が良いからどっか行くか」とは言った。
しかし、軽いつもりで言っただけで、まさか例の遊園地にまだ遼介が拘っていたなど思うはずがないのだ。

だから久遠は悪くない。

それでもこの扉はくぐらねばならないらしい。

かくして予想外に人生初の遊園地デートを経験することになった久遠、横にいる遼介をここまで憎らしいと思ったのは言うまでもない。

「楽しみだね」

「あ? ……おう」

だが結局は可愛らしい笑顔につられて許してしまうだらしない大人だった。


「いってらっしゃーい」

「有難う御座います」
「…………」

ゲートのお姉さんに手を振られ素直に返す遼介と無言の久遠。

以前、某ファーストフードの時も思ったものだが、何故サービス業の連中は同じ笑顔とテンションで全体的にぐいぐい来るのか。
もっと必要最低限の会話だけにしてほしいと思う久遠だったが、その願いが叶うことは残念ながらやってこないだろう。

遼介は久遠が何やら考え込んでいるのを感じていたが、初遊園地に戸惑っているのだろうと聞かずにパンフレットを広げた。

「俺もここ一回来ただけなんだよ。だから何処に何があるのかいまいち……すごい広いし」

久遠も右に行くのか左に行くのかすら分からず、パンフレットを覗き込む。
もしここで遼介と離れようものなら、真っ先に迷子になること間違いない。

「で、最初は何処に行くんだ」
「人気だからホラー迷路に」
「これなんかどうだ、絶叫マシン」

明らかに遼介の言葉を遮って他のアトラクションを勧める。
自分から何処に行くと聞いておいて不自然な提案をしてくる久遠を見て、そんなに絶叫マシンが好きなのかと思う。

「それもいいね。とりあえずホラー迷路は並ぶと一時間以上掛かるから、先にパス取っちゃおうかと思って。それなら夕方までには乗れるし並ばなくて済むし」

「へー、そんなのがあるのか」

遊園地の知識がゼロに近いので、並ぶ以外にアトラクションに乗る方法があることを初めて知る。

ホラーを除けば新鮮なここも存外楽しめるかもしれないと辺りを見渡すと、入口近くにあるギフトショップが目に留まった。
屋台のように簡易的な造りで、土産物や帽子などがいくつか置いてある。

「遼介」

くいくい、と首根っこを軽く引っ張って遼介に尋ねる。

「何?」
「あの帽子は何だ? あんなふざけた造形で恥ずかしくねぇのか」
「あーあれ! 詠二さんも付けてみれば?」

遼介が意地悪くにししと笑って指差したのは、遊園地のキャラクターがどでかくかたどられた帽子だ。

予想通り、それを聞いた久遠は盛大に顔を顰めた。

「これ、ここのキャラなんだ」
「こんなん三十路が被るなんざ、罰ゲーム以外の何ものでもねぇだろ」
「そうでもないよ、ほら」



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