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平穏最後の日(完結)
8



「覚えててくれたんだ、嬉しいなぁ。あの時はほんと助かったよ」

「道教えただけですから、何でもないですよ」

それでも助かったからと言う田川は、やはり優しそうな顔で好感が持てる。
何となく斉藤と話している感覚に近い感じがして、遼介の方も話すのが二回目ということもあり警戒も薄れてきた。
特別用事のなかった者同士、会話しながら道を歩く。

「じゃあさ、今度こそお礼させてよ。家近いけど来る?」

「ほんっ! ……あー」

本当ですか! と嬉しい気持ちを表そうとした遼介だったが、「知らない人に付いていかない」という兄の言葉を思い出しぐっと詰まる。

「どうした? 用事ないんだろ?」

不思議そうに見つめてくる田川に悪い気がするが、正直に話そうと思い口を開く。
きっと子どもだと思われるんだろうなあ、と少々恥かしい気持ちになった。

「あの、俺兄ちゃんと住んでるんですけど、知らない人には付いていかないって言われてて……あ! 高校生にもなって過保護だってのは分かってるんですけど!」

目を見開いて聞いている田川を見て引かれたと思い、気まずくて語尾が強くなってしまう。
赤くなりながら説明する遼介を見て、思い出したかのように動き出した田川がぷっと噴き出した。
やっぱり子どもだと思われたと俯く。

兄が自分を思ってしてくれていることなので、それは全く問題ないし嬉しいことなのだが、きっと普通の家庭より過保護なのだろうというのは気が付いているのだ。

「ごめん、いや君がなんか可愛くてさ。バカになんかしてないから安心して」

そう笑う田川は本当に優しくて、ほっと胸を撫で下ろした。

「じゃあ、”知らない人”じゃなくなったら遊びに来てね。そーだな、外で食事だけなら平気かな? ええと名前は……」

譲歩してくれた田川に、大人の対応を感じ感動していた遼介がそういえば名乗っていないと思い視線を合わせる。

「原田です。原田遼介。実は今日一人で夕飯だったんで嬉しいです」

「遼介君ね、俺は下の名前は守って言うんだ。好きに呼んでいいよ。こっちも引越してきて会社以外じゃ遊ぶ相手いないから助かるよ」

見たところ学生というほど若くはなさそうだったので、やはり社会人らしい。
最近大人の知り合いが増えて嬉しく感じる遼介だった。

お互い時間もあるので、ゆっくり話が出来るところをファミレスへ行くことにした。
さすがに夕方と言えど明らかに学生の遼介を居酒屋に連れて行くのは気が引けたらしい。


「早く慣れようと思って仕事終わりはいつもこの辺ぶらぶらしてるんだ。偶然遼介君を見かけたから吃驚したよ」

「俺も吃驚しました。本当にこの辺りに住んでるんすね!」

遼介は田川と仲良くなれたことが嬉しく、敬語もいつの間にか初対面のそれとは変わり砕けたものになっていた。
聞けば田川には弟がおり、遼介と同じ年なのだそうだ。

「弟さんはこの辺の学校じゃないんですか?」

「まあ遠くはないんだけど、実家から離れてるから寮に入ってるんだ」

食事は終わったもののまだ話し足りなくて、ドリンクバーを活用してゆっくり滞在している。

「俺飲み物終わっちゃったから遼介君のもついでに入れてくるよ。何が良い?」

悪いですと言うより早く、遼介の前に置いてあったほとんど残っていないグラスをひょいと取られてしまう。
早業に呆気に取られていたが、せっかくの好意なのでお願いすることにした。

「すみませんわざわざ、じゃあコーラで」

「おっけ、コーラね」

にこにこしながらドリンクを注ぎに行ってくれる田川を見つつ、そういえばと携帯を見遣る。

時間を確認したところ、まだ十九時。
恭介は二十一時過ぎると言っていたからまだ問題ないだろう。



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