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平穏最後の日(完結)
6



二三言会話のやり取りをして別れる。

声を掛けられたのは、つい先日学校で話をした女の先輩だった。
まさか同じところに通っていたとは驚きだが、それ以上に佐藤の顔がヤバイ。

あわあわと口を震わせ頬は紅潮、中途半端に挙げた両手が意味ありげにゆらゆら揺れている。

怖い。


「さ、とうさん、どうしたんですか」
「リ、リアルJK!」
「は」
「リアルだよリアル!坊ちゃんすごいッスさすがッス!俺も話せるようになるッスか!」
「えと、女子高生とってことですか?そりゃここ通えば佐藤さんも同年代だと思われるから、話しかければ友だちになれると思いますけど」

若干引き気味に答える。
佐藤はそれを聞いてさらに挙動不審になった。「やべぇ、俺やった。あれ、犯罪じゃないよな?」などぶつぶつ言っている。

守られているはずなのに、一人の時より何倍も不安になったのは言うまでもない。






「恭兄!」
「ただいまは」
「ただいま!じゃなくて、いやただいまだけど!」

優雅にコーヒーを飲みながら出迎える恭介にずかずかと詰め寄る遼介。

「今日予備校申し込んだんだけど」
「だけど?」
「何あれ!」
「何ってなんだ」
「佐藤さんだよ!恭兄の指示だって言ってた」
「あ?ああ、あれ佐藤になったんだったか。あいつが選ばれるなんてなあ」

他人事かと思う程のんびりと話す恭介に遼介の怒りがさらに増す。

「予備校行くだけなのに、わざわざ組の人の仕事と生活奪うなよ」
「別に奪ってねえ、仕事内容が変わっただけだし生活はむしろ健康的で良いだろ。予備校以外は事務所勤務のままだし」
「恰好まで変えさせて、佐藤さんだって全然気づかなかった」
「ああ、そうなったのか。あいつの恰好じゃそりゃ無理だもんな」

どう言っても上手いことはぐらかされているようでおもしろくない。
自分が怒っていることが間違っているのではないかとさえ思わせるこの兄は実にずるい。

分かっている。

遼介は何度も危険な目に遭ってきた。
それは何処にいたって安全ではないと言っているのと同じだ。

恭介は純粋に心配してくれている。

ただそれを一方的な行動のために素直に受け入れられないだけで。

「……佐藤さん、なんでか喜んでた」

「そりゃあ良かった」

謝ることもお礼を言うことも違う気がして、それだけ言うと諦めたのか遼介はもうその話をしなかった。

心機一転と思っての行動だったが、結局は手のひらで踊らされている。
卒業するまでにはそこからなんとか脱して大人になりたい。

そのためにはまず勉強!

とにかく見張りがあろうがなかろうが、予備校に入ったのだから思い切り勉強してやると決意した。

「こうなったら勉強しまくってやる」

部活もバイトもあるから大変そうだ。
やることが増えた遼介は、久遠との時間が減ることに気が付いていなかった。


ぶるぶると鞄に入れていた携帯が震える。

「やば、今日全然確認してない……やっ!?」

メールかとタップしてメールBOXを開くと、久遠からのメールが何通も未読のまま存在を主張していた。



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