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平穏最後の日(完結)
5



さすがの佐藤もこれには参る。

上司命令だとしても、それなりに気を使っていた外見をことごとく否定された気分だ。
一日かけて全てメモの指示通りにしたあと事務所に出勤した佐藤は、才川に抗議した。

「何ですかこれー!俺じゃなくなっちゃうじゃないッスか」
「いいんだよそれで、若命令なんだから」
「え、マジスか」
「おう。それで坊ちゃんの護衛してこい」
「護衛……?危険な場所なんスか」
「いや?予備校行くんだと」
「よ、予備校!?まさかそこで護衛って俺も!?」
「そのまさかだ」

驚きを隠せず固まってしまった佐藤に簡単な説明をした才川。

すでに遼介が申し込みそうなところへ見学の予約も入れてしまったらしく、さっさと行ってこいと追い出されてしまった。





「――つーわけで」

「なるほど……って俺の所為じゃないですか!すみません」

しゅん、と塞ぐ遼介に佐藤が慌てて声を掛ける。

「坊ちゃんの所為じゃないッス!若頭命令は絶対だし、それに選ばれたなんて光栄っつーか何つーか」
「そう、兄が変なこと言うから。予備校のどこに危険があるっていうんだ」
「ぼぼ、坊ちゃん落ち着いて!」

ずもも、と不穏な空気を漂わせて恭介を思う遼介に焦る佐藤。
これは任意の命令だったとしても受けたはずの仕事だ。遼介にいらない感情を持たせたくない。

「俺は望んで来たんです。坊ちゃんを守るなんて重大な仕事任されるなんて今まで無いことだったし」
「でも、見た目まで変えてもらって年齢だって偽って大変じゃないですか」
「いいんス、これくらい。それに俺あんなんだったけど、いちおう高校では成績良かったんスよ!」

そうなのだ。

おちゃらけた見目だった佐藤は実は進学校を出てこの世界に入っている。

大学へ進学せずここに入った理由は身内しか知らないが、恭介の言う「若く見えてそこそこ勉強も出来る」という人物に佐藤はうってつけだった。
もっとも指示を受けたのが他の者であったなら派手な佐藤は選ばれなかったであろうが、才川は佐藤をよく知っていたので出で立ちを少々いじれば問題無いと判断したのだ。

「それにしても、ここにいるからっていう先入観もあると思いますけど、今の佐藤さん学生っぽいですね」

「マ、マジッスか!やった、まだイケてるんだ俺ー!」

褒められ?てひゃっほうと小躍りする佐藤。
ここまでぶっ飛んでいないが、どこか斉藤を彷彿とさせて遼介は親近感を覚えた。

常にぎりぎりのところで生きる殺伐とした仕事をしているというのに、それを全く感じさせない。

「じょ、女子と話すとか何年振りだろ。俺の周りおっさんばっかだから」
「おっさん……確かに」
「でしょー!今から楽しみッス」

佐藤が所属する大城組は、紫堂会傘下の中でも平均年齢が高い組だ。

それに伴い若くとも固い性格の者が多いため、佐藤は少々異端に分類される。
一方久遠属する東条組は三十代までの若い世代が半分近くおり、大城組とはまた違う雰囲気を醸し出している。


心底楽しんでいるようなので恭介にはあとで問いただすとして佐藤とともに元の場所へ戻る。
きょろきょろと見渡してみたが騒ぎにもなっておらず、先ほどの佐藤の発言は聞かれなかったらしい。

佐藤はたいして気にした様子もなく、「何の授業受けようかな〜」と鼻歌を歌いながら入学案内をぺらぺらめくっている。

そこへまたも遼介に掛けられる声が。
今度は何がと思い振り返ると、意外な顔がそこにあった。

「あ、あれ。遼介君?」
「こんにちは。偶然ですね」
「本当!もしかしてここ入ったの?」



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あきゅろす。
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