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平穏最後の日(完結)
4



その週は部活とバイトで忙しかったため、週末に申込に行った。
手続きが終わると入れ違いに何人か受付に来て同じような話を受けている。彼らも遼介と同じく申込みに来ている仲間だろう。

それ以外にも、ちょうど受験直前ということで多くの受験生があちこちで講師に質問する姿が見受けられる。
推薦を覗く受験組はまだ試験が始まっていないが、センターがまもなくということでどこかそわそわしていた。
一年後の自分を見ているようで興味深く観察する。

入学資料を持ちながら事務所前に貼られている掲示物を見ていると、後ろからぽん、と肩を叩かれた。


「あ、もう入ったんですね」

振り向くと黒髪にやんちゃそうな顔の男がにこにこしながら立っている。
確か受付ですれ違ったうちの一人だ。

それにしてもこの口ぶりでは知り合いらしいがまるで見覚えがない。

本当に知り合いだとすると、こちらだけ忘れているので大変申し訳ないと遼介は内心焦った。

「えーと」
「分からないッスか?あ!そっか、これですね!分からないッスよね、俺も慣れなさ過ぎて失敗だろって思ってて」
「はあ……」

口ごもっている遼介に男は思い付いたと頭を指差して笑う。
その笑顔が何処かで見たことがある気がして必死に記憶を駆け巡る。

何処かで。

確かあれは。


「……あー!!」

「お、分かったッスか坊ちゃん!」

分かったも何も変わり過ぎてて驚いたまま口が閉じられない。分かったのが奇跡なくらいだ。

一度会ったきりであるが、あの時は黒髪ではなくじゃらじゃらと顔に腕に装飾品を付けていて極め付けはそう、青いコンタクトをしていた。

「佐藤さん?」
「ビンゴー!お久ッス」
「お久しぶり、というか面影無いですよ!」

目の前に立つ佐藤こと大城組佐藤大吾は見事にビフォーアフター状態。
黒髪で一切の装飾品も無しコンタクトも無しだ。一体どうしたことかと言うのか。

というより佐藤は成人を数年前に果たした社会人である。

「何で予備校いるんですか?」

もっともな疑問だ。
それに対し佐藤は「ふっふっふ」と不気味な笑いで仰け反った。

「よくぞ聞いてくれました!俺の新しい任務がこれです!題して「遼介坊ちゃんを守り!隊!」」

「うっわ……しーっ!!」

自信満々に叫び出す佐藤の口を思い切り手で塞ぎ、そのまま人気の無い廊下まで引っ張る。
数人には聞かれてしまったかもしれない。
幸いまだ申込みをした段階で知り合いはいないはずなので、何も悪い噂が立たないことを祈るばかりだ。

それにしても、久遠の事務所で一度会っただけの佐藤が何故ここに。
任務だと言っていたが仕事の一環なのだろうか。

「佐藤さん、仕事どうしたんですか」

「だからこれが仕事なんですって!」


佐藤から聞いた話によるとこうだ。

ある日いつもと同じく才川の運転手として仕事に励んでいると、何やら急ぎの電話が才川に入った。
眉間の皺を一つ増やした才川が電話を切るや否や、すぐ「事務所に戻れ」と言うではないか。
事務所に戻り才川がメモを書きなぐって佐藤に渡す。そしてこう言ったのだ。

「ここに書いてあることをしてこい。今すぐにだ」と。

それをした結果、今の出で立ちになってしまったそうだ。



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