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平穏最後の日(完結)
2



「ここか。家からも近いし、四月が混むんならもう申し込んじまえ」

遼介から受け取ったパンフレットを見てそう放つ恭介。

恭介のことだから、もっと慎重に調べるなりして言うかと思っていたので意外だ。
予備校に入りたいことを言ってあったからか、名前と場所を確認した程度で結論を出してしまった。

しかも、遼介が頷く前から申込書にがりがりと書き始めかなりの行動力である。

「おら、あとは親父に名前書いてもらっとけ」

「う……うん」

ぴらっと必要事項が書かれた申込書を投げられ、戸惑いながらも受け取った。

確かに大学に進学したいと話した時は賛成してくれたが、何か引っかかる気もする。
かといって何かが含まれていたとしても遼介側に被害が降りかかるようなことも思い付かないので、考え過ぎなのだろう。
受け取った紙を謙介の元へ届けるとすぐに書いてもらえたので、明日にでも申し込みに行くことにした。

翌日教えてくれた部員に伝えると、「まだ知り合い少ないから嬉しい」と喜んでくれた。

部活で忙しい今の時期から予備校に勤しむのは大変に違いない。
三年生に進級するまでに少しでも馴染んでいけたらいいと思う。




「わざわざ予備校なんざ行く意味あんのか、勉強なら教えるぞ。園川が」
「そのくだり前もあったと思いますけど。俺も一通り教えられますが、確かに受験だと種類が違うしさすがに今時の傾向知らないので、受からせるという自信があるとは言い切れません」
「そういうもんか」

「二人きりで勉強する機会を失うのは悔しいですけど」と本気で残念がる園川。

諦めたのかそうでないのか飄々とした態度の園川からは本音が窺えないが、見た目ではこうしたふざけたやりとりも戻ってきて穏やかな雰囲気で会話出来るようになった。
久遠と園川の仲も相変わらずであるものの、殺伐としたところは無くなったようだ。

ちなみに、園川は気持ちを伝えていないため、遼介は何も知らないままである。

「にしても、これじゃあまた俺との時間が無くなるじゃねぇか」
「うわ大人のデレキモイ」
「何か言ったか阿呆斉藤」
「イイエナニモ」

久遠と斉藤も変わらずである。

「お前、その舌の所為でいつか身を滅ぼすぞ」

「おっしゃる通りで……」

小宮山のツッコミにも反論出来ない。

自分でも気にしてはいるが、身に着いてしまって癖は中々直らないもので。
ここに入ってから、というよりは、幼い頃から似たようなことを親から注意されていた気がする。
もしかしたら一生一言多い性格のままいくのでは、と不安になった。

――出世出来る気しねぇ。

まだまだ若輩者なのは分かっているが、いくら楽観的な斉藤でもいつかは重要な位置を手に入れたい。

しかしこんなことではいつまで経っても出世どころか、同期の小宮山や後輩にまで追い抜かれかねない。

――これって結構やべぇんじゃね?

遼介の受験勉強であれこれ騒いでいる横で、斉藤は一人危機感を募らせるのだった。


「俺、置いてかれないよな?」
「は?何言ってんだ?」
「使えないとか言って事務所から干されたりしねぇよな」
「んだよ、なんかやらかしたわけじゃねぇんなら、余計な心配しねぇでちゃっちゃと仕事しろ」
「ごもっともで!」



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