平穏最後の日(完結)
8
「それに恭兄も知ってる人だし」
知ってるも何も古くからの腐れ縁で、界隈で有名な犬猿の仲な有名人だ。
「なんだぁ、恭介さんの知り合いなら平気だね」
ほっとする坂本。
坂本は年の離れた恭介を本当に頼りになる人間だと思っているので、その恭介の知り合いであれば全く問題はないと解釈した。
今でもたまに思い出す哀しい出来事から遼介を救い出してくれた恭介に尊敬の気持ちを抱いているのだ。
――まあ、あんな完璧兄ちゃんなんて探しても中々いないけど。
背が高く優しく、仕事は社長業などいろいろなところから引く手あまたであろうと思う。
「大丈夫大丈夫。んでっ裕太なら付き合ってしたいこととかあんの?」
「俺、ねぇ〜やっぱちゅーはしたいし。その先はまあ、相手が頷いてくれればおいおいって感じ……うわーはずいこれ!」
「そっかー……やっぱそういうもんなんだ」
どうやら自分が思っていたのは随分奥手なものだったらしい。
付き合ったことの無い坂本ですらそこまで考えているのだから、経験豊富であろう久遠にはあの行為は付き合えば当然というわけで。
――じゃあ、もしかして結構我慢させてたんじゃ……。
付き合いだしてからどの程度で”そういうこと”になるのかは分からないが、少なくとも数か月経っているのでもしかしたら遅い方なのかもしれない。
思い返せば、我慢していたようなことを言っていた気もする。
一度経験してまたすぐしたいとは思わないが、こんな年下で考えも子どもな相手をよくしてくれていると久遠に少し申し訳ない気持ちにもなった。
――でもあれは恥ずかし過ぎてしばらくはいいかな。
そこへ我に返った坂本が再度肩を掴んできた。
「でもそれが当たり前ってわけじゃないから!お姉さん相手じゃ大変だろうけど、遼ちゃんがしたくなければちゃんと拒否るんだよ?」
「分かった、ありがと」
とりあえず次にしたいと思うまでは少し待ってもらおうと思う。
我慢を継続させてしまうのは申し訳ないが、無理をして背伸びをしてもきっと気付かれる。
それを心配されるよりはましだろう。
こうやって聞いてみると、同級生より付き合うことへの考え方が子どもっぽい気もするが、少しずつ進んでいくしかあるまい。
「にしても、こんな子どもよく選んでくれたなあ」
「ねね、結構年違うの?遼ちゃん格好良いからモテるに決まってるじゃん!」
「全然、格好良いってのは恭兄みたいなのだよ」
全く思ったことありませんとした顔で遼介が首を傾げる。
なるほど、遼介の極度の無自覚さは恭介が傍にいるのがかなりの原因のようだ。
あれが一番近くにいるのであれば、それも致し方ないと坂本は思った。
しかし少しは分かって頂かないと。
「恭介さんは格好良いとして、遼ちゃんも相当なんだよ。このクラスだって何人か遼ちゃん好きな人いるよ?女子って意外と怖いから危機感持たないと」
「でも告白されたことほとんどないけど」
「それは周りが牽制し合ってるだけで!本当だからね!」
「お、おお……分かった気を付ける」
あまりの迫力に負けてこくこく頷く。
普段こんな風に押してくる坂本ではないので驚いたが、「女子は怖い」という言葉に心当たりもあるので納得出来る部分があることは確かだ。
ついこの間も勘違いから始まった久遠へ好意を持つ女の所為でとばっちりを受けたばかりである。
さすがの遼介も、危なそうな人間には近づかないと学習をした。
――ちょっとずつ変わっていこう。
変わらなきゃではなくて。
大人にならなきゃではなくて。
まずは思ったところまで。
少しずつ少しずつ。
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