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平穏最後の日(完結)
4



先ほどから久遠の呟きの意味がよく分からない遼介は首を傾げる。

久遠の言い方からすると、自分と何か行きたいところがあるかしたいことがあるかに聞こえる。
何か約束でもしただろううか。

何か、例えばこの前に会った時に。

何か……。


「……っあ」

突然遼介が真っ青になる。

その変化を見た久遠が横目で遼介に問いかけた。

「何か思い出したのか?それにしてもその反応、俺の予想通りだとすると些か傷つくんだが」

「えっいや、その。嫌だとかそんなんじゃなくてすっかり忘れてたというか」

先月、もう去年になるが二人で会った時に確かに約束していたのを思い出した。
一つは「二人きりの時は名前で呼ぶこと」、もう一つは。

「次に会う時は”続き”をすること」

続きはつまり、遼介には未知の世界のあれであって、その約束を忘れていた遼介に今から軽く受け入れることが出来るわけもなかった。
真っ青になってしまったのは忘れていたことに気が付いたというだけで、本当に嫌な気持ちはない。
しかしだからといって、はいそうですかといくことが出来ずに遼介は心の中でもがきにもがいていた。

しばらく黙って見ていた久遠だったが、おもむろに遼介の手を取って歩き出す。

後ろめたい気持ちのある遼介は、されるがまま久遠のあとを付いていった。


人ごみをすり抜けて少し歩き、小さな公園のある林へと入る。
街灯も少なく、祭りが盛況の今は誰もいない。

そこでやっと振り向いた久遠が遼介を見て意地悪な視線を寄越すものだから、すぐ後ろにあった木に寄り掛かり逃げるように俯いた。


「いいだろ?」

「うう……」

ついには木の幹にもたれて座り込んだ遼介に覆い被さる久遠が詰め寄り、追い打ちの言葉を囁く。
遼介の震える肩に、優しく、しかし絶対的な手が意志を持って落ちてきた。

もう拒否することは出来ないと知りながらも、遼介は未だあと一歩の距離が準備出来ないでいた。

久遠の手は待ってくれない。

するりとコートの中に入ってきたそれはひんやりとしていた。

「おっと、寒ぃか」

一瞬遼介が震えたのに気が付き手を引っ込めて抱きしめる。
真冬の夜に外でなんて、急を要しているわけではないのだから慌ててやる必要もない。

「出店で回ってないとこ回ったら俺ん家行くぞ」
「……もう全部回ったよ」
「……そうか」

観念したらしい遼介に自然と笑みがこぼれた。







「結構冷えたな」

久遠の家に着いた二人は、エアコンの付いたリビングでひとまず寛ぐ。
はしゃいだり慌てたりしてよく分かっていなかったが、冬の風は思った以上に冷たく体を冷やしてしまっていた。

「でもこんな時期にお祭りやってるなんて知らなかったから、今日はすごい楽しかったよ」
「そうだな」
「ありがとう」



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