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平穏最後の日(完結)
3



ならいいかと納得し口を挟むのを止めてしまったため、結局久遠は上の段にある客寄せ用の高級な景品たちをあらかた取ってしまった。



「……有難う、御座います」

「はは、失礼します」

もう来ないでくださいと涙目の店主に同情しつつ出店をあとにする。

それからは気を取り直して行きたい食べたいものを全部回った。
輪投げも久遠は得意だった。何か的を狙うものはきっと全般得意に違いない。

遼介は次は食べ物だと次々に出店をはしごする。

焼きそば、お好み焼きにたこ焼きと、祭りと言えばこれと思い付くものを買い、その場で食べながら次のものを物色していく。

「お前、意外と食うな」

「育ちざかりだから」

にっと笑う遼介は実に子どもらしい。
そういえば運動部の男子高校生だったなと思い出してみるが、それにしても食べ過ぎではなかろうか。
それとも「甘いものは別腹」と言う女子のように、「お祭りは別腹」と今日に限って満腹中枢が壊れでもしているのかもしれない。

「太るぞ」
「大丈夫」
「まあ遼介は細いから、少しくらい肉付いたってまだまだ許容範囲だが」
「気にしてることを……もっと鍛えて筋肉付けるつもりだよ、これでも前よりは筋肉増えたし」

去年から筋トレの量を増やし部活の自主トレも始めた遼介は、本気で鍛えようとしているらしい。

抱き心地としては筋肉より脂肪がもうちょっと付く方がいいのだが、とじっと遼介の体を見つめる。
そんなことを言ったって遼介は喜ばないことは分かっているので、心の中で思うだけに留めた。

「紫堂の人にも鍛えてもらおうかな」
「お前それ以上運動する気か」
「だって、もっと背も体重も欲しい」

聞けば目標は恭介の背に少しでも近づくことだそうだ。

血の繋がった兄弟なので努力すればもっと伸びると思っている遼介に対し、恭介ばりの体格になった遼介を想像した久遠はどうにか今程度で済んでほしいと思ってしまう。

もし今以上に伸びても少しくらい太っても変わらず大切にする自信はある。
しかし、好みを言わせてもらえば今が一番だと思うのだ。

とりあえずはこの笑顔を見られるだけでいいかと考えるのを止めた。

「く、詠二さんも食べる?」

「おー食う、こういうとこのは久々だな」

ちゃんと名前で呼んできた遼介に笑顔で答え、一口もらう。ちなみにチョコバナナだ。

「これはあれか、フリか」
「フリ?」
「……違うな」

ピュア過ぎる恋人というのは時に残酷である。


「そういや今日は何時まで平気だ?」

「えーとあと二時間くらいかな」

時計を確認して話す遼介を見て久遠は満足そうに頷いた。
祭りの終了が二時間後なので、それを目安に帰るのだろう。


「なるほど、じゃあ十分だな」

「何が?」



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