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平穏最後の日(完結)
2



待ちに待った祭り当日、鏡の前に立つ遼介の顔は朝から緩みっぱなしだ。

「恰好は冬だからいつも通りでいいや」

祭りと言えども一月は一年で一番冷え込む時期だ。遼介は私服にコートを羽織って家を出た。

この時点で陽は落ちているが今日は祭りに行くと伝えてあるし、ある程度遅くなっても帰る時に連絡さえすればいいと言われたので問題ない。
暗い道を数分歩いたところで短いクラクションを鳴らされた。

確認しなくても分かる。久遠の合図だ。


「お待たせ」
「まだ時間より前だぜ、俺も来たところだ」
「そっか。それにしても今日空いてて良かった」

それもそのはず、遼介から誘ったのはつい数日前でいくら繁忙期でないにしろ仕事でダメだと思っていたのだ。

「最近二人で会ってなかったしな。仕事なんて前倒しでやりゃあどうにかなる」

「そっか……」

ということはきっと仕事自体は入っていて、遼介のために仕事をずらしたか早めに処理したということなのだろう。
仕事より自分を優先してほしいとまでは思わないが、自分を優先してくれたことは純粋に嬉しい。

もうすでに見慣れた車に乗り込みながら、向かう祭りと久遠との久々のデートに思いを馳せた。






大規模ではないと聞いていたが、行ってみれば思った以上の人手だった。

神社を中心に、その近くの商店街まで出店が伸びぐるりと駅前を一周している。
これはなかなかの祭りだと、情報を持ってきてくれた恭介に感謝した。

最近家の者や久遠たちなど年上と会うことが多いので大人しいが、本来は同年代と騒ぐ子どもらしい一面を持つ遼介なので、祭りはもってこいの場所だったりする。

くるくると表情を変えて嬉しそうにする遼介を見て久遠も来て良かったと思う。

「好きなとこ全部回るか」

「い、いいの!?」

遠慮していたのだろう、久遠がそう言えばさらに目を大きくさせて言う。どれだけ行きたいところがあるのかと思いつつも、今日はとことん付き合ってやろうと歩き出した。

「えーと、荷物になるといけないから食べ物はあとで……あ、射的だ懐かしい」
「いいぞ、やってみろ」
「うん。おじさん一回ー」
「あと一回追加だ」
「久遠さんもやるの?」
「悪ぃか?あと久遠じゃなくて詠二、な」

「う、え、詠二、さん」

射的など小学生以来かもしれない。
二人きりの時は名前で呼ぶという約束に恥ずかしさを滲ませながら、まさかの久遠も一緒に参加してくれるサプライズに胸を弾ませた。


「つーか……」

「なんだ?」

何か悪いかとでも言いたげな久遠の横には積まれた景品に山。
苦戦する遼介にコツを教え、さらに自身では一発も外さず大物をゲットしている。
店主の顔が真っ青なのは言うまでもないが、久遠のオーラが怖すぎて「手加減しろ」と言い出せないようだ。

「そういえば射的なんて本職じゃん」
「別に構やしねぇだろ。それなら警察だって同じだ」
「まあ確かに」



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あきゅろす。
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