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平穏最後の日(完結)
3



「えーと、何でここにいらっしゃるんでしょう……」
「それはこっちの科白なんだけど……まあいい、話聞くから中に入って」
「はい……」





「あーだりぃ! 遼介帰ったぞ」

五月蝿い音を立てて入ってきた久遠がぶつぶつ文句を言いながらソファに腰を下ろす。
こんな時はゆっくりコーヒーを飲んで……と思い描いていたのだが、元気の良い声が聞こえてこないため不審に思い顔を顰めていると自分の横に影が差す。

「「久遠さん!どういうことですか!」」

そこには、困惑した顔の遼介と般若の顔をした明らかにキレてる園川が立っていた。
園川とは、何度か久遠たちの会話で出てきている遼介が逃がした人、その人である。

「あー、園川帰ってきたのか」
「帰ってきたかじゃないですよ! 俺、身内の不幸で実家に帰らせて頂いてただけですけど!」
「園川さん、お金持って逃げてないって言ってますけど」
「おまえらちょっと落ち着け……って遼介やけに落ち着いてんな。静かにキレるタイプか? そりゃ厄介……」
「いや別に怒ってないです」

「「ああ!? (ええ?)」」

久遠と園川の二人が驚きの声を上げたところ、とりあえず座って話し合うことになった。
久遠が座り、その向かいに園川と遼介という形だ。

「遼介君、怒ってないってこの外道とんでもない嘘吐いたんだぞ? 殴っても大丈夫だよ?」

園川がそれはそれは黒い笑顔で遼介に問う。
なまじ美青年なものだから、その笑顔は恐ろしく整っていて怖さをさらに引き立てている。

「いえ、騙したのは久遠さんかもしれませんけどそれを信じたのは俺。騙されたとかないです。だから怒ってません」

驚いたのは園川で笑顔が固まりゆっくりと目を見開いていく。

一方久遠は上機嫌で悠々と煙草を取り出していた。
やはりそういうと思った、ここ数日遼介と過ごしている久遠は何となくそう言うのではないかと感じていた。
少なくとも怒るわけはなかろうと。

遼介は小学生並に純粋で、しかし自分の言動態度に責任を持つ頑固で真面目な男だ。
その遼介を騙していたことに後ろめたさがなかったわけではないが、いつバレてもいいと思っていた。

おそらく遼介は離れてはいかないだろう、万が一離れようとしても離す気はさらさらないが。
だが、この信念は純粋故にきていることもあるため、この世の中がどれだけ黒く深いものか少し教えておかねばとも思っていた。

「遼介君……恐ろしくピュアだね……」

園川も同じように感じ取ったのか、感心と心配が入り混じったような表情をしている。

「ところで何で久遠さんは園川さんのこと殴ってたんですか。悪いことしてないって言ってるのに」
「あ? こいつが仕事詰まってんのにいきなり何日も休むとか言い出したからだろ。当たり前だ」
「当たり前じゃないですよ……殴られて出来た腫れ二日引かなかったんですから」

はあ、と溜め息を吐いて久遠を睨むが、上司である久遠に強く言えるはずもなく項垂れるばかりだ。

「いいじゃねぇか。少しは極道らしくなんだろ」

それをいい事に久遠はにやにやして園川を弄る。それよりも気になるのは遼介のことだ。

怒らなかったものの、もうここに留まる理由など何もない。
しかもヤクザと関わりなんて持ちたいと思うものなど普通の神経の者なら誰もいないだろう。
遼介自身、家族からヤクザと関わるなと言われていると話していたくらいだ。

「遼介、怒ってないんだな」
「はい」
「明日からどうすんだ」
「あーもうお手伝いとかする必要ないんですよね」

それはそうだ、悪いのは久遠なのだから。
それなのに、そう言う遼介の表情が明るくないことを久遠は感じていた。


「淋しいのか」



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