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平穏最後の日(完結)
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大城組は主に南関東を東条組と組んで勢力を伸ばしている暴力団である。
そして一番大きいのがバックに紫堂会が付いているということだ。

そこを敵に回そうという輩はそうそういない。
だから、今回のように荒らされるという状態になることは異常なことだった。
しかし、久遠たちには心当たりがあった。


「遼介、やっぱりあっちで宿題やってろ。小宮山、斉藤こっち来い」

ぽんと頭を一撫でして、遼介を今まで小宮山たちが座っていた方へ向かわせる。
重い空気を感じながら、遼介は素直に従って事務机の席に座り持ってきていた鞄をがさがさ漁っているので、おそらく言われた通り宿題でもやるのだろう。

遼介の興味が持参したノートに移ったところで、低く久遠が唸って話し始めた。


「あれか、大城組が立て込んでいることを知ってのことか」
「……だろうな」
「本山は何て言ってる」
「先の抗争を知ってる奴らだろうから十中八九近藤組だと」

二ヶ月前、大城組と近藤組は抗争を起こしていた。
しかも、どこから情報を得たのか紫堂会の会長と若頭が大城組にいる時間帯を狙ってだ。
元々紫堂会と近藤組は対立しており普段から小さないざこざはあったのだが、その時は稀に見る激しい抗争になり多くの犠牲者を出した。

一番の痛手は紫堂会若頭を失ったことだ。

紫堂会の若頭は会長の義理の息子であり優秀な右腕だった。
銃の腕前にも定評があり、この抗争でも前線で活躍した。しかしあまりにも状況が悪すぎたのだ。
近藤組の大部分がなだれ込んだのではないかと思うほどの奇襲に対し、こちらは紫堂会本邸ではなく大城組邸で最低限の人数しかいなかった。

それでも若頭は奮闘し会長を無傷で守り通した。
これは誰に出来るものでもなく、若頭だからこそ出来たことだ。

応援が来てなんとか近藤組を追い払ったあと、崩れ落ちるように倒れた若頭は奇跡的に命は助かったものの今でもICUから出られず、復帰出来るのかも分からないらしい。

そこで次期若頭へとその息子である大城組若頭の本山に話がいっているのだが、本山は若頭が復帰出来るか分かるまで待つと言う。
今は補佐が代理で行っているが、もし本山が移るなら大城組も改変しなければならないため今大城組は通常業務以外でばたばたしているのだ。

「近藤組かぁ、じゃあ遠慮いらねぇなぁ。今度見つけたら全力で潰してやるぜ」

にやあと悪い笑顔を見せながら、久遠が胸元の内ポケットのあたりを擦るそこには久遠の愛用するアレが入っている。

「こいつで全員にお揃いの穴開けてやるぜぇ」

「おい、派手にやるんじゃねぇぞ。サツに尻尾掴ませるな」

暴走しかねない久遠を才川が窘める。
しかしその顔は笑っていた。

東条組である久遠ですら怒りを覚えているのだ、大城組の才川の怒りは計り知れない。
才川は抗争時本山とフロント業務の仕事のためにその場にいなかったことを、会長と若頭を守る役目が出来なかったことを悔しく感じていた。

「まあ、紫堂会には東条組がいるってことも思い知らせてやる」

「今度動きがありそうな時は呼び寄せるから、宜しく頼むな」

一人勉強していた遼介は宿題が終わったこともあり、ぼんやりとテレビを観ていた。
邪魔になると悪いので音量を小さくして聞いていたら、普段の部活の疲れもあってか眠気を襲ってくる。
ソファの方では何やら真剣な話がなされているが、すでに眠りの世界に片足を突っ込んでいるためよく聞こえてこない。

そのまましばらく船を漕いでいると、がたがたと音がして何人かがこちらへ向かってくる気配がした。

「じゃあ若から話が行くかもしれんが、ふざけた態度取るなよ」
「本山がいつも空かした顔してっからだろ。極道のくせにおしゃれぶっちまってよ」
「んだよ……そっちの園川だって似たようなもんだろ。お、この子寝ちゃったか?」

ドアの近くの事務机に突っ伏して目を瞑っている遼介を才川が覗くが、ふと何か思ったのか首を傾げている。

「なんか、この子どっかで見たことある気がすんな」

「ああ、こいつこの辺に住んでてそこのコンビニでバイトしてっからだろ」

ふうん、と興味が失せたのか才川は足をドアに向け歩き出した。
後ろからばたばたと着いてきた佐藤が、慌ててドアを開ける。

「別に堅気でも何でもいいけどよ。お気に入りなら箱に仕舞って大事に隠しとくんだな」

「そんなんじゃねぇよ。さっさと帰れ」

しっしっと手のひらを才川に振って追い出そうとする久遠。
その態度に苦笑いしながらも反論せず、そのまま才川と佐藤は帰っていった。



「やっぱ今日は厄日だぜ……」



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あきゅろす。
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