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平穏最後の日(完結)
14



――最悪だ。

部活が終わってマンションへ向かいながら遼介は自己嫌悪に陥っていた。

バイトがない日で良かったと思う、こんな気持ちのまままともに働く自信がない。


――俺にこんな気持ちがあったなんて。

極道というものがどういうものなのか知っているつもりだった。
しかし”つもり”なだけだったのだ。

以前久遠と二人歩いていた時通行人の態度を見て、自分も関わり合いのないままだったらああいう風に思ってしまっていたかもしれないと思ったことがある。

久遠たちと知り合った時、兄から家族のことを知らされた時、純粋にこの人たちが好きだから問題ないと思った。

それは今でも同じだ。

だがそれはその人個人個人を見ていただけで全体が見えていなかった。周りからどう見られるかまで考えていなかった。


ぐしゃ、と乱暴に髪の毛を掴む。

――俺はどうしたいんだ?

――俺は。

いつの間にか着いていたマンションを見上げる。
兄は自分を助けてくれ毎日心配してくれる優しい人。
紫堂の家族たちも距離は離れていても大事にしてくれているのを全身に感じている。

どんなところだってやっぱり大好きで、隠したくなくて。

遼介は何度か瞬きをして、ふう、と息を吐いた。


――離れられるわけないじゃないか。

どんなに悩もうとも結論などとうに出ていた。

今日のような、自分から遠い者にまで知らせる必要などないが、もしも近しい人が詳しく聞いて来た時は偽らずに伝えようと思う。
それが原因で距離を置かれてしまうかもしれない、何かが変わってしまうかもしれない。

それでも。




エレベーターを出て家に入るとすでに明かりが点いていた。珍しく恭介が先に帰ってきているらしい。
遼介は靴を素早く脱いで恭介がいるであろうリビングへと走っていった。

ばん、とドアを開ければソファに座る恭介の姿。

「恭に……」

駆け寄ろうとしたが恭介がこちらに気が付いていないのが分かり、そろりと覗くと恭介は規則正しい寝息を立てていた。

――疲れてんだ。


恭介はフロント業務の方がメインではあるが組でも重要な役に就いている。
疲れていないはずもない恭介を見て、余計自分は何て事を思ったのかと沈みながらそっと隣に座った。
近くで見ると小さな目尻の皺とうっすら付いている隈。

それを見つめながら遼介もゆっくり目を閉じた。


ふっと意識が浮上するといつの間に帰宅したのか横には可愛い弟の姿が。
恐らく自分が起きるのを待っていたら寝てしまったといったところか。

珍しく眉間に皺を寄せて悩むように眠る遼介を抱き寄せて、よしよしと頭を撫でる。

「もう少し俺の手元にいてくれよ」

髪の毛にキスするとくすぐったそうに体を捩った。



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あきゅろす。
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