ディット・バーン02

そして、ユーロス宅。

「なるほどな。そうとう廃れているみたいだな」

家族との食事を終え、ユーロスの書斎で、この街のギルドの様子をディットは聞かされ
ていた。
その話とは。
ここ二年ほど、盗賊ギルドの長が変わった頃からだろうか?
目に見えて、盗賊ギルドの人間達が、町の住民達を襲うようになってきていた。
あるいは金銭を。
あるいは物品を。
そして。
あるいは若い女性達の貞操を。

盗賊ギルドというのは、本来遺跡や洞窟といった秘境と呼ばれるところから、秘宝を探してきてそれを元にギルドを経営している。
いわばトレジャーハンターの集まりといった方がわかりやすいだろうか。
そのギルドにおいて、最低限度の決まりがあった。

それが、人の物には手を付けてはならない。
人自身に手を付けてはならない。
といったものであった。

それが、ここアースロッドの盗賊ギルドでは日常茶飯事に破られている。

「なるほどな……」

「それは本当に困っているのです。ディットさん……あなたは強い。あなたには彼らを止めることは出来ないのでしょうか?」

そう言うとユーロスは、高価ではあるが客に対してはあまり出される物ではない、キュービック酒をディットのグラスに注いだ。

「私邸にはそれほど高価な酒はありません。これが今私に出せる最高のものです。どうぞお飲みになって下さい。これはディットさんがきっと彼らに制裁を与えてくださると確信している証としてお出ししているのです」

ユーロスはそう言って、自分のグラスには、それよりも一回りも二回りも格の下がるエールと呼ばれる麦酒を注いだ。

「その前に一つ聞かせて欲しいことがあるんだが?」

ユーロスはエールの瓶を置きながらディットに返答をする。

「聞きたいこととは……?」

「あんたの家族のことだ……。盗賊ギルドのことを相当嫌っているようだな。俺に対する態度が冷たいのは分かるが、あんたにまでよそよそしかったのが気になってな」

「それは……恐らくあなたに対する恐怖心があったのでしょう。妻は、気が弱いモノですから、あなたを連れてきた私に対しても、不安があったんでしょうな」

ユーロスはそう答えると、エールを一口飲んだ。

「その事をあなたが気にすることはございません。むしろ、気を遣わせてしまい、もうしわけありませんでした。どうぞ、お酒の方を……お時間もあまりないようですし」

「……キュービックはあまり好きではないが、あんたの気持ちだ。いただこう」

ディットはそう言うとぶっきらぼうにグラスに口を付け中の酒を一気に飲み干した。
その瞬間わずかにユーロスの口の端が、わずかにつり上がる。

「ふん……灯り苔の粉末か。まぁ睡眠薬としては二流だな」

「なっ……」

ディットは立ち上がりユーロスを見下ろした。

「お前が怪しいことなんざ、会った瞬間から分かっていた。それまで何の気配もしなかったあそこで、ギルド員と争っていたヤツが堅気の人間なわけはないからな。それともここアースロッドの農協組合では、組合員全員に特殊な訓練でもしているのか?」

ディットはそう言うとユーロスを見下ろす目に冷たい感情をうかがわせる。

「くっくっくっ……よく分かったな。さすがに貴様もギルドの人間だけある」

ユーロスはそれまでの人の弱そうな表情から一変して、いかにもその道を長年歩いてきたものだけが漂わせる、独特な雰囲気を身にまとわせた。

「むしろ俺は貴様の存在の方が気になるがな」

ディットはそう言うと、ユーロスの頭の上からつま先まで素早く確認する。
先ほどまでとは違い、温和な雰囲気は微塵もない。
むしろ全身から滲み出ているのは憎悪の感情。
これほどまでに急激な感情の変化を、一般の人間はおろかギルド員ですら操ることは難しいものだ。
その事実に気づいたディットは、もうひとつの事実にも気がつく。

「そうか……ギルドの人間というのは予測はついていたが……貴様がこのアースロッドのギルド長カイラス・アレサンドロだな?」

ユーロスと名乗っていた男の口が不気味なほど嫌らしい嘲笑を浮かべる。

「そうさ……この俺こそがカイラス・アレサンドロだ」

「ならば探す手間が省けた。貴様に貴様の居場所を聞くつもりだったんだからな。さて……アースロッドギルド長カイラス・アレサンドロ。貴様を処罰する」

そのユーロスに、ディットは冷たくそう言い放った。

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