三つに重なり合う運命の道02

クレスが口を開こうとした瞬間だった。

「うおぉぉぉぉおぉっ!」

うなり声を上げながらディットに突進してくる男がいる。
先ほど散った筈のギルドの一員だ。

「危ない!」

ブラックウィンドのその言葉が聞こえたのは、クレスとディット・バーンがそのギルド員の存在に気づく少し前。
クレスは咄嗟に剣の柄を握ったか、それを抜くかどうか迷っていた。
どちらが悪なのかその判断に迷いがあったのだ。
結局クレスにとって悪は悪であり、善ではない。
もし今こちらに飛び掛ってこようとしている男が、もしも"善"であったなら。
しかしディット・バーンに躊躇はなかった。
しなやかな動きで鞘から抜かれたディットのミドルソードは、確実に突進してきたギンルド員のわき腹を薙いだ。

「ギ……ギルドよ……永久に!」

そう言いながら崩れ落ちるギルド員。
目の前でまた一人の命が散ろうとしている。
そのわき腹を薙いだ一撃は改心。
これ以上ないまでに的確に人間を死へ至らしめる一撃。
クレスの頭にまた血が昇る。
それは怒り。
目の前で殺人行為を行われた事による怒りの感情。

「わかったよ……わかった!」

クレスは大きな声でそう叫ぶ。

「君は善じゃない!」

その瞬間だった。
クレスのその言葉がディット・バーンに届いた瞬間。
辺りに一際甲高い音が響く。
ディット・バーンのミドルソードが、クレスのとっさに抜いたハーフソードにはじき返された。

(ほう……)

その動きにディット・バーンはわずかにだが、自分の心が踊るのを感じた。
今の一撃を弾き返されるとは思っていなかったからだ。
その一撃はあくまでも牽制に過ぎずクレスの身体に傷を与えるものではなかったのだが、それでもその一撃を返されるとは思わなかったのだ。

「うわっ……見えなかった」

声の主は、先ほどの年若い女だった。
まだいたのか……。
ディット・バーンはそう心の中でつぶやいた。
余計な見物人は現場の混乱を呼ぶ。

「ねぇ、なんで殺したの?」

目の前の少年は、また同じことを聞いてくる。

「……それが俺の仕事だからだ」

ディット・バーンは低いが、それでいてよく通る声でそう答えた。

「仕事だから?人の命を何だと思ってんのさ!」

クレスはそう言うと、ディットに向かって、その格好からは到底想像できないほどのダッシュ力で間をつめていく。

(やる……しかし、甘い!)

ディット・バーンはその一瞬の時間で、クレスの動きを読んで、ミドルソードを縦に構える。
今度は、クレスの刃をディット・バーンがはじき返す。
次々に金属同士がぶつかり合う甲高い音が静寂を切り裂いていく。

(この二人は何者なの……二人とも半端じゃなく強いわ…… )

女はそう言うと、自分の杖を握った。
いつ何が起こっても咄嗟の対応が出来るように、だ。

一緒にきていたゴロツキの彼は、あまりの光景に腰を抜かしたのか、女の近くに座り込んでいる。
これほどの対峙を見るには、一般人に過ぎない彼には刺激が強すぎる。
そのすぐ近くで、ブラックウィンドは思いをめぐらせていた。
クレスの事。
目の前の男のこと。
とくにクレスは、今非常に精神的に不安定な状態にある。
この街に来る前に人を斬っているからだ。
そして、その人を斬る行為の後に、いつもの癇癪が出た。

何故だかは分からない。
もしかしたら、クレスの両親が命を落したことによるトラウマなのかもしれない。
クレスは、癇癪を起こしたあと必ず精神が興奮状態になり、感情が表に出やすくなるのだ。
つまり、今のクレスの感情こそが、本当のクレスの心。
多少殻から飛び出した感情を制御できていないところもあるが、それでもあれはクレスの正真正銘の感情なのだ。

そして、それを真っ向から受けとめている男。
彼の持っているミドルソードを、ブラックウィンドは知っているはずなのだ。
ミドルソードというのは使い手の数こそいれど、それを使いこなせる人間は稀少。
ましてや、これだけの使い手だ。
大陸中に名前が広まっていないことなど、あるはずがない。

「アレサンドロ!?」

その時だった。
更にそこに新しい邪魔者が出たようだ。
今度は男。
しかも、ディット・バーンには聞き覚えのある声だった。

「貴様……」

まず口を開いたのはディット・バーン。
そこにいたのはトッポと呼ばれる男。
アースロッド盗賊ギルド副頭領。

「貴様がアレサンドロを殺したのか?」

元々良くはなかった目つきだったが、更に鋭く細いものになっている。
黙ってその視線を受けとめるディット・バーン。
その視線という名の闘いに、クレスはおろか、ブラックウィンドさえも口を挟むことが出来ない様子である。

(あいつ!……)

ディット・バーン同様女にも、トッポという男に見覚えがあった。
ありがたいことに、トッポと呼ばれるギルドの人間は、目の前にいるミドルソードの男に気を取られて、こちらには気づいていないようだった。
とはいえ、下手に動くことは出来ない。
このタイミングで動くということは、誰にでも分かる。
それは決して低くない確率で、誰かしらの死を招きいれるだろう。
そして、今。
ディット・バーン。
クレス・ロックスター。
"トッポ"という三人の男達による戦いが始まろうとしている。

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